獲物を貫くような瞳。
大臣は彼の目を見て卒倒し、気絶してしまった。
「ヨル」
「承知しました」
名を呼ばれたヨルは彼の意図を理解し、大臣を縄で縛る。
クライド様は私の前に立つと鉄格子に向かって剣を振るう。
カラン、カラン。
剣で斬られた鉄格子が床に音を立てて落ちる。
彼は静かに私に近づく。
「助けて頂きましてありがとうございました。そして勝手な真似をしてしまいまして申し訳……」
私は頭を下げて謝ろうとするが、突然私はクライド様から抱きしめられた。
「私から逃げられると思ったか。言っただろう。お前は私の妻だ。どんなことがあってもけして手放さぬと」
彼の言葉は執着に塗れた言葉だった。
だけど彼の顔は本気で私を心配している顔をしていた。
以前の私なら彼の言葉の意味をそのまま受け取っていただろう。
だけど今は違う。
彼は不器用で言葉足らずな人。
だけど本当は誰よりも心配したかもしれない。
「クライド様。私は……」
彼に自分の想いを伝えようとする私の言葉をヨルは遮った。
「ひとまずここは先にコイツらを衛兵に引き渡す方が先にしよう。話は屋敷に戻ってから出来るはずです。それで良いよな?アリス」
「ええ…」
ヨルの言葉に私は短く頷く。
クライド様から身体をスッと身体を離された。
彼はヨルに指示を出す。
私は縛られていた大臣に視線を向けた。
余程彼は私を…お父様を恨んでいた。
お父様の娘というだけで殺されそうになるなんて…。
でも大臣はお父様が国を追放されたことを知らなかったのかしら?
大臣の役職なら知っていても可笑しくないはずなのに。
だけど、例え知っていたとしても彼は私を殺そうとしたのかもしれない。
私がお父様と関係なかったとしても、お父様の血を継いでいることでさえ許せないかもしれないのだから。
****
屋敷に戻って来た私を屋敷の使用人達はとても心配してくれていた。
私は彼らに迷惑を掛けて、心配掛けたことを謝った後、「話がある」と言われて無理やりクライド様の自室に連れて行かれた。
今私はクライド様と二人きりで向かい合いながら椅子に座っていた。
「…………」
「…………」
暫く長い沈黙が続く。
私は彼に対して罪悪感と申し訳なささに押しつぶされそうになり、口を開いた。
「クライド様…。私はあなたと…」
「すまなかった……」
「えっ?」
私は彼の言葉を聞いて顔を上げた。
クライド様は罰が悪そうな顔をして私から視線を逸らして私に謝った。
予想外の言葉に私は驚いた。
「あの時の私はお前と婚姻を結んで私のものにさえしてしまえばお前を守れると思っていた。王の妻は王の次に発言権が与えられる。だからこそ暗殺のリスクはあるが、容易に手を出せる状況には陥らない。私は迷わずその方法を実行しようとした。それが最善策だと思っていた」
クライド様は私の顔を見て切なそうな表情で言った。
「だが…私はお前が逃げ出したくなるほど私との婚姻を拒んでいたことを理解していなかった。
今まで欲しいものは全て手に入れて来た。多少強引な手段でも。だがお前だけは違う。お前がいなくなって初めてお前が私の隣で笑っていなければ意味が無いと思ってしまったんだ」
「クライド様……」
「こんな気持ちになるのは初めてだ。手放したいのに手放せないとはな…」
はっと自嘲気味に笑うクライド様を見て私は心が傷んだ。
私は彼と話し合うことをせずに勝手に彼の前から去ろうとしたことを後悔した。
分かっていたはずだ。
彼はいつも言葉足らずで、不器用で、傲慢だけど本当は優しい人だと。