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第51話 決着

「ああ。奴は昔から人を自分の権力を笠にかけて人を痛ぶり、爵位が低い者を奴隷のように利用し続けていた。昔は良く屈辱を何度も味合わされた。私は努力し続けて今の地位を手に入れた。なのに奴の娘が国王陛下の婚約者だと!そのようなことけして許されない!間違っている!」


「お父様とあなたの間に何があったのか私には分かりませんが私はお父様とは別の人間です。関係ありません」


「それは助かりたいだけの言い訳か?なのだとしたら愚の骨頂だな。無駄な期待は捨てろ。お前はここで死ぬんだ。恨むのなら陛下の婚約者になった己の運の無さを恨むが良い」


ならず者の一人が無言で腰の鞘からスラリと剣を抜き、勢い良く鉄格子越しに私へと剣を突き刺す。

私は咄嗟に剣を避けた。


(咄嗟に避けたけど早すぎて避けるのがギリギリだった…)


鉄格子で剣を避けられる距離は充分にあるけれど、全て避ける自身はない。

このまま続ければ私は傷を追い続け、何れ命を落とすかもしれない。


「お前をそこから出さず、この距離で殺すことはお前が婚約者という立場の重荷に耐えきれず、自殺したと陛下に伝える為。そうすれば陛下も諦めはつくだろう」


大臣の目的は私の婚約者としての地位を無くすこと。

もし、私が婚約者という立場を捨てれば命は助かるのかもしれない。

元々私は王妃になりたくなくてクライド様から離れたのだ。

なら口にすることは簡単だ。

一言『婚約破棄を願いたい』とだけ言えばそれで良い。

こんなに傷つけられることも。

命を狙われることもない。

私の希望どおり平民になって自由を満喫できるかもしれない。


だけど……

私は顔を上げて前を見据えた。

(こんなやり方は間違ってる)


「私を殺してもあなたの思いどおりにはなりません。クライド様は国のことを思っています。国のことを考えていない人が戦争には行きませんし、何より自ら国王としての仕事も全うしません。彼はあなたの操り人形なんかじゃない!」


「抜かせ!小娘が!?こやつを殺してしまえ!!」


激昂する大臣の言葉に応じてならず者は私の顔を目掛けて剣を貫こうとした。


(駄目…!?)


私は死を覚悟して目をキツく閉じた。

だけど襲って来る痛みは現れない。

ゆっくりと目を開くと私の顔に向けられた剣の切っ先が停止していた。


「私の妻に剣を向けた罪。万死に値する」


クライド様がならず者の手首を強く握り、剣を止めていた。


どうして彼がこんなところにいるのか。

逃げ出した私を何故助けたのか分からない。

だけど…

彼に救われたことがこんなにも心を乱され、嬉しく思うなんて。


クライド様はならず者の手首を握り潰すように強く握り、ならず者は苦痛に耐えきれず悲鳴を上げた。

「ぐぁぁぁぁ」


クライド様はつまらなさそうにならず者を投げ捨てるように手首を離す。

私に向けられた剣がカランと音を立てて床に落ちた。


クライド様は大臣に振り返った。


「これはどういうことだ。大臣」


冷たい目でギロッと大臣を睨むクライド様。

彼の後ろにヨルが静かに佇んでいた。

ヨルはいつでも動き出せるように剣の塚に手を掛けていた。


「ひぃっ…」


クライド様の気迫に耐えきれず大臣は短い悲鳴を上げた。


「国王陛下。恐れながらあなたはこの悪女に騙されているのです。聞けばこの女は陛下の婚約者とありながら他の男と寝台を共にしたという噂があります。それに彼女はあのフィールド家の娘。フィールド家は落ちぶれた貴族であり、その当主は欲深い男」


大臣は一度言葉を切り、続けた。


「大方その娘は陛下を篭絡し、王妃になるように父親から言われたのでしょう。なんという浅ましい女なのです」


「言いたいことはそれだけか?」


クライド様は冷たく氷のような視線を大臣に向ける。

射抜かれたように大臣はその場から動けなくなってしまう。

クライド様はゆっくり大臣に近づき、彼の前で足を止めた。


「私の妻を愚弄した罪、連れ去り殺害しようとした罪、私を謀った罪。これは死罪に値する」


「ま、待って下さい!誤解です!!私は……」


「何がだ?私の妻が襲われそうになったことは私とそこのヨルしか知らないこと。もし知っている者がいたとしたら、それは犯人だけだ」

「それは……」


「お前が主犯なのか?それとも…お前は犯人と内通しているのか?」


蔑むような目線で冷ややかな声音で問い掛けるクライド様に大臣はひゅっと息を飲んだ。

それもそのはず。

今の彼は容赦なく人を斬り捨てる冷酷王の顔をしていた。


命が惜しいのか大臣は慌ててクライド様に言った。


「私の言った言葉は事実なのです。陛下はその女に騙されている!私はそう聞いたのです。あるお方から!!」


「そのあるお方って言うのは王女様からじゃないのか?」

「……………」


ヨルの言葉に大臣は悔しそうに押し黙った。

それは肯定だとも取れた。


「もう良い!!殺せ!?一人残らず殺せ!!」

このままでは死罪は間逃れないと思った大臣はヤケを起こし、ならず者に命令をする。


「話と違うじゃねーか。国王を殺すなんて依頼聞いてねーぞ!」

「黙れ!どの道お前もここで捕まれば私と共に死罪だ。ならばここで不慮の事故に見せ掛けて亡き者にした方が良いだろう!!」


「クソっ…!!分かったよ!」


ならず者はクライド様に剣を振るう。

「うぉぉぉ」


しかしヨルは剣を持ち、クライド様を庇うように一瞬でならず者の間合いに入り、剣を彼の腹部を切りつけた。

「………ッ」


ならず者は後ろに身体ごと後ろに倒れて血を流した。

石畳に赤い血が流れる。


ヨルは冷ややかな目をしていた。

私はこんな彼を知らない。

いつも気安くて優しい彼しか知らなかった。

人を斬った彼を見るのは初めてで私は言葉を失ってしまった。


クライド様はならず者の死体に目もくれず大臣の前に剣を突き刺した。

「つぎはお前の番だ」


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