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第50話 攫われた婚約者と陰謀と

一人になった私はベッドの上に座る。

明日にはアクアリウトに戻る。

自分で決めたこととはいえ、クライド様と顔を合わせるのは気まずい。

と言うか、きっと怒っているかもしれない。

彼から逃げ出してしまったのだから。


彼と話し合ったあとのことは正直まだ考えていない。

王妃になりたくはない。

もしなったとしても彼とは離縁する。

彼に気持ちがないまま結婚してもお互いが不幸になるのは目に見えている。


「私はどうしたいのだろう……」


私は天井に向けて手を伸ばす。

今の私は迷っている。

自分がどうしたいのか。どうなりたいのかを…。


窓から差し込む月明かりに私は視線を向ける。

光り輝く月がとても美しく見えた。



****


翌日の朝。

宿屋を出た私は本屋に行き、店主に店を辞める旨を伝えた。

働き出してまだ一週間としか立たないのに急に辞めることになってしまった罪悪感を感じる。

詳しい事情は話せないため国に戻ると伝えたら店主は優しい言葉と共に心良く受け入れてくれた。


私はヨルが待つ広場まで向かう。

彼とはそこで待ち合わせをしていた。

広場の噴水の近くでヨルの姿が見える。

私は急いで彼の元に駆け出した。


突然、ぐいっと後ろから誰かに腕を引かれて捕まえられた。

「!?」


私を捕らえたのは大柄な体躯をした男性だった。

「大人しくしろ!」

「ヨル…」


「アリス!?」

ヨルは私が捕らえられていることに気づき、私の元に急いで駆け寄る。


しかしヨルの前には数人のならず者の男達が取り囲んでいた。


「行かせるかよ。あの女は俺達にとっては必要な女だ」

ヨルは冷えきった目で男達を見る。

「誰に雇われた?」


「お前に教える気はねぇよ」

「なら良い。捕らえて吐かせるまでだ」


ヨルは剣でならず者の男達を斬っていく。

しかし男達も剣でヨルに応戦する。

ヨルの実力は圧倒的。

次々と男達は倒れていく。


私は捕らわれていた男の腕の中で暴れる。

「クソっ…!」

「ふぐっ…!?」


突然私は男から口と鼻に無理やり布を押し付けられた。

薬品の香りがして気が遠くなり、私は意識を失った。


***


「アリス!?」


ヨルは目の前の敵を倒しながら男から連れ去られるアリスを目にする。

事前に用意していた馬車にアリスを乗せ、男は自らも乗り込むと馬車は急いでその場から走り出した。


「クソっ…!!」


ヨルは目の前の敵を剣で一閃する。

敵は次々と倒れ、ヨルは馬車を追い掛けようとするが、すでに走り出していた。


アリスを奪われた失態に自分を許せない程の苛立ちを募らせる。

その時ヨルは走って行く馬車の家紋を目にした。


「まさか…あの家紋は……」


ヨルはある考えに至り、急いでその場から駆け出した。


****


「んっ……」


私は目を覚ますと薄暗い地下牢だった。

錆び付いた鉄の匂いが充満しており、逃げられないように手足には枷が付けられていた。


「何故こんなことになっているの…?」


確か…私はならず者の男に襲われて必死で逃げ出そうとしたら気づいたらここにいた。

男が私をここに連れて捕らえた。


もしかしてクラリス様が私を…

クライド様はクラリス様が暫く何もして来ない可能性が高いと言っていた。

それを聞いた私はすっかり安心してしまった。

流石に視察を行っている最中でことを荒立てるようなことはしないだろうと。


「おや、お目覚めになられたようだ」

「あなたは…」


私の目の前に現れたのはクラリス様ではなく、王宮の大臣と私を捕らえたならず者の男がいた。


「どうして大臣がここに…?私をどうするおつもりですか?」


「こちらも少々色々あってね。回りくどい言い方は貴方には伝わらないかもしれない。単刀直入に言おう。貴方にはここで消えて頂こうと思ってね……」


「私をですか…」


私はクラリス様にけしかけられて貴族の男に襲われかけて純潔を奪われそうになった。

今度は命までも彼女に狙われている可能性があるかもしれないと思っていたけれど……。

まさか大臣が私の命を狙っていたなんて。

だけど私は大臣から命を狙われる理由が分からない。


「私を殺して貴方に得があるのでしょうか?」


私は毅然とした態度で彼に言う。

そんな私を小馬鹿にしたように大臣は鼻で笑った。


「得という程では無いがお前のせいで陛下は変わられた。今まで国政に興味を示さなかったのに国政に興味を示し、尚且つ国税まで口を挟むようになった。今まで戦争にしか興味が無い無能な国王だったにも関わらずにだ。私がこの国の国政を仕切っていたはずなのに!」


「つまり…あなたはクライド様を国のお飾り国王だと思い、国を自分の意のままに操ろうとしていたということですか?だからクライド様を変えようとした私が目障りだから殺そうと…そう思われたのですね」


クライド様は興味が無いことに関しては無頓着な方だ。

だけど彼は見えないところで仕事は真面目にやっている。

それを知らないだけだ。

この男の口振りではおそらく庶民達からの国税に関しても着服している可能性があるかもしれない。


彼は私を殺すだろう。

だけど私はただ黙って殺されるわけにはいかない。

こんなところで死ぬのは嫌だし、何よりまだクライド様に謝ってもいないのだから。


「何だ。その目は?生意気な…」


苛立った表情で大臣は私を見た。


「お前の父親もそうだった」

「お父様も?」


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