奥さんの優しさを感じて私は胸が熱くなるのを感じた。
こんな私に優しくしてくれるなんて、なんて親切な人なんだろう……。
「ちょっと待っててね!」
奥さんは急いでキッチン向かうと急いでランチボックスの中にサンドイッチを入れると再び私の元に戻って来た。
「沢山入れたからね。お腹すいたら食べるんだよ」
笑顔でランチボックスを差し出す奥さんに私はそれを受け取って微笑んだ。
「ありがとうございます。助かります」
「うん。またいつでも遊びに来てね。待ってるから」
「ねぇね、いかないで」
「こらダリー。暴れるなって…」
何かを察したダリー君はリカルドさんの腕の中を激しく暴れ始めて泣き出した。
「あー……。アリアナちゃんに懐いていたからね…。ダリー、お姉ちゃんを見送ろう。良い子だからさ。ね」
「いや~~。うわぁぁぁ」
泣き出すダリー君に私は優しく頭を撫でた。
「ダリー君。またダリー君に会いに来るから。これあげる。プレゼント」
私はダリー君に綺麗な石を渡した。
アクアリウトの川辺で拾った綺麗なシーグラスに似た石だった。
視察の時に偶然見つけてあまりの美しさに思わず拾った物だ。
「わぁ~~。ありがうと…」
「これは珍しいな。普通は海の近くにしか落ちていないのに」
「偶然、拾ったんです」
ダリー君はすっかり泣き止んで今は石に夢中だった。
私はリカルドさんと奥さんに顔を向けて挨拶をする。
「リカルドさん、奥さん。一晩泊めて頂きまして本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
「大袈裟だな。一晩くらいで。街道はたまに変な奴がいるから気をつけろよ」
「また来るんだよ」
「はい!」
こうして私はリカルドさんの家を後にして街道に向かった。
****
街道から歩いて半日。
街道から険しい山道を抜けてやっとの思いで隣町にたどり着いた。
「やっと着いた…」
山道を歩いたせいで外套に沢山の葉っぱや小さな枝を払う。
周囲を見渡すと街はアクアリウト程大きな街ではないにしろそれなりに人が大勢行き通っていた。
今の私はクライド様達に見つからないように変装をしている。
それにこれだけ多くの人達がいる中で私を見つけるのは時間が掛かる筈。
(暫くはここでお金を稼いである程度溜まったら別の街に行こう)
出来るだけ遠くに逃げて、北にある隣国にさえ渡ればきっと彼らは追って来れないだろう。
北の隣国は雪国と呼ばれているほど極寒で誰も寄り付かない。
それに隣国の国王は他国の者を民に受け入れて大切にしてくれるという噂だ。
極寒にさえ慣れさえすれば生活は出来る筈。
出来れば暖かい地域が良かったのだが、今の状況の中、パシヴァールにいる限りそれは望めないかもしれない。
パシヴァールは左右に隣国がある。
一つは大都市と呼ばれる春の都の隣国『ミラウ』
もう1つは北の大地の『リンミンドル』。
通常はミラウに行く者が多い。
ミラウの気候は過ごしやすく、一年を通して花が咲きみだれる国だからだ。
私はミラウに向かったのだと思わせてリミンドルに向かう。
そうすれば私の所在は分からない筈だ。
(そうと決まればまずは仕事を探さないと!)
私は街の中を散策する。
街にはブティックショップ、パン屋、食堂などが立ち並んでいた。
(働くにしてもどんなところが良いのかしら…?
侍女の経験があるから貴族の屋敷で侍女をするとか…?駄目だわ。そんなことしたら居場所かますぐにバレてしまう。別の仕事を探さないと…)
さらに先に進むと衣服店の張り紙が目に入り、私は思わず足を止めた。
そこには『お針子募集』の紙が張り出されていた。
(お針子か……)
繕いものや刺繍針仕事は実家で良くやらされた。
主にミカの変わりに。
彼女は私が縫った刺繍を家庭教師に提出していたようだった。
今となっては呆れて何も言えない。
だけど私にも出来そうな仕事だ。
ここで雇って貰えたら生計を立てながら逃亡し金の貯金をしよう。
私は店の戸を開けた。
店内に入ると白を基準とした上品で綺麗な内装にドレス、服、手作りの髪飾りが置かれていた。
どれも丁寧に作れたものばかりで服が一着ずつ違う。
(凄い…。これ全部オーダーメイドだわ)
「何かお探しですか?」
「えっと…」