必死に走った先に私は街に出た。
街を駆け抜けていく中で私は一つのブティクショップを見つける。
(良かった…!ここで服の調達しよう)
足を止めて息切れした呼吸を少し整える。
そして私はブティクショップの中へと入った。
暫くして。
無事に服を調達した私は店の外に出た。
私の格好は先程とは違い、水色のワンピースに白のエプロンドレスの上から茶色のフード付きの外套を身に付けてブーツを穿いている。
一見誰も私が貴族だと分からないだろう。
「早く街から離れないと。すぐに追手が来てしまう」
私が屋敷を抜け出したことがバレてしまえばすぐに追手が来るだろう。
追ってに捕まってしまえば今度こそクライド様は私を王妃にしてしまう。
彼は実力行使をする人間だ。
だからこそ彼に捕まる訳にはいかない。
私は急いで街の中を歩き、二時間くらい歩いた先で街道の手前までやって来た。
路銀はある。
先程服を購入するついでに持っていた宝石を換金に回して路銀や金貨に変えた。
だけどこれだけは売ることは出来なかった。
昔から大切にしていたヨルから貰ったブレスレット。
これは今でも私の御守りみたいなものだ。
彼から下町で買って貰った腕輪とクライド様から頂いたネックレスは城の私の自室の宝石箱に大切に保管している。
今の私にはもう付けることは無いかもしれない……。
思い出に思いを馳せている場合では無い。
早く行かないと。
そう思い、私は歩き始めた。
突然、急に後ろから声を掛けられる。
「お嬢さん。こんな夜更けに何処に行くんだい?」
私は肩をビクッと震わせた。
(もしかして見つかった…?)
恐る恐る振り向くと、そこには年配の馬車に乗った男性がいた。
一瞬だけ商人に変装した盗賊かと疑ったが、何処からどう見ても商人だった。
その証拠に荷には大量の木箱や果実が入っているのが見えた。
私は警戒を解いて彼に答えた。
「今から別の街に向かう予定なんです」
私の言葉を聞いて商人は驚いた。
「こんな夜遅くに街道を行くなんて危険だ。ましてや女の子が一人で。この街道は夜中狼や猪が出たり、盗賊が出るんだ。悪いことは言わないから今からでも街まで引き返して宿を取った方が良い。何なら街まで俺が送って行くからさ」
「でも…街には引き返すことが出来ないのです。少し事情があって……」
街に引き返してしまうと私を探しているクライド様達に見つかってしまう可能性がある。
それだけは絶対に避けたい。
でも商人が言うことも最もだ。
もし街道を移動中に襲われでもしたら街を抜ける話では無い。
どうしたら良いのだろうか…。
決めあぐねていた私に彼は言った。
「よしっ!なら俺の家に一晩泊まって行きな!」
「で、でも…そんなご迷惑をおかけする訳には……」
遠慮する私に商人は心配そうな表情で言った。
「気にすんな。俺の家この近くなんだ。それに女房と息子だって、こんな可愛いお客さんなら歓迎してくれるさ」
「ありがとうございます。でも、どうして助けてくれるのですか?初めて会ったばかりなのに…」
「困ってる奴を助ける理由なんてねぇよ。俺の自己満足だ。さぁ乗った、乗った」
「あ、あの…」
私は商人からぐいぐいと背中を押されて馬車に乗せられた。
多少強引だったかもしれないけれど今の私には有難い申し出だ。
ここは素直に甘えよう。
私の隣で馬の手網を握る商人に私はお礼を告げた。
「ありがとうございます。助かりました」
「別に良いってことよ。子を持つ親として放っておけなかっただけだ」
私は商人の言葉を聞いて彼の子供が少しだけ羨ましく思えた。
私は両親から一度もそんな風に思って貰えなかった。
きっと彼の子供は幸せだ。
心から大切に思ってもらえるなんて。
馬車はガラガラと音を立てて夜の中を進んで行く。
私は夜闇の景色をただただ眺めていた。