数週間後。
王宮内で夜会が行われた。
夜会に王族はもちろんのこと大勢の貴族達が招かれていた。
誰もが上品に着飾り、豪華な料理が所狭しに並んでいた。
(凄い豪華…。こんなの始めて見るわ…)
物珍しさに周囲を見ていると、私は自分に向けられている視線に気づいた。
「あの方は誰なのかしら?見かけない方ね…」
「あら知らないの?殿下の婚約者らしいわ」
「まぁ、ではあの方が…王太子妃になられるお方……。それにしてもキレイな方ね。殿下とお似合いだわ」
(えっ…?私が…?)
令嬢達が噂する中で内心私は驚きを隠せなかった。
いつも妹と比べられて地味だと実の親に罵られていた私が綺麗だと言ってもらえるなんて…。
今の私の姿はクライド様から贈られた彼と同じ色の瞳の淡いサファイヤ色のドレスを身につけ、シンプルなアクセサリーに長い髪を一つにまとめ上げて銀細工で出来た蝶の神飾りで止めている。
今日の夜会の為にカミラが綺麗に仕上げてくれた。
私自身も自分の姿を見て驚いたが、他の令嬢達の目から見てもこの場に浮いていないことに安心を感じた。
(このまま一人ここにいると目立ってしまうわね…。一応飲み物を取って来よう……)
私は近くのテーブルに置かれている飲み物を取りに向かう。
テーブルには色鮮やかなワイン、カクテルなどが置かれていた。
私はオレンジのカクテルを手に取り、目立たぬように壁際へと移動した。
(そういえば…クライド様の姿が見えないわね…。どうしたのかしら?)
この前彼とお茶をした時、彼は夜会で私を婚約者として紹介すると言っていた。
この場で紹介されると言うのは私が先々王太子妃になるということを意味している。
(外堀から埋めていくなんて…。私を逃がさないようにしているのかもしれないわね…)
結婚は避けて通れないのであれば早いところ彼に愛想つかされて離婚されるようにしないと…。
はぁ……。
ため息が出てしまう。
「美しいご令嬢」
私が振り向くと銀髪の若い男性が私に話し掛けて来た。
顔がほんのりと朱をさしていた。
手にはワイングラス。
もしかして酔っているのかもしれない。
「えっ…?私ですか…?」
「貴方以外に誰がいらっしゃるのですか?もし良かったら夜風に辺りに行きませんか。貴方と二人きりでお話がしたいのです」
(ダメだ…。この人完全に酔っている…。ここは穏便に断ろう)
私はそう思い、やんわりと彼に断った。
「お誘いは大変有難いのですが…。今人を待っておりますので…」
「そのようなつれない事を言わずに少しだけでも…」
銀髪の男性は私の手を乱暴に掴んだ。
(随分と乱暴なことをするのね。王族が主催の夜会でこのような振る舞いをするなんて…。きっとロクな男ではないわ…)
「離してください…!」
銀髪の男性の手を振り解こうとするが力が強いせいか全くビクともしない。
「そんな嫌がらずに…。さぁ、こちらですので…」
(駄目だわ…。酔っていて全く話を聞いてくれない…)
「私の妻に何をしている?」
突然、クライド様が颯爽と私の前に現れた。
銀髪の髪に国王としての正装の姿。
それは誰もが見惚れてしまう程の美しい姿だった。
「まさか…彼女は陛下の婚約者様……」
銀髪の男性はクライド様の姿を見て血の気がサァーと引くように青ざめる。
自分がナンパしていた令嬢がまさか国王陛下の婚約者ということなんて全く知らなかったのだろう……。
「貴様は私の妻に何をしていた?申してみろ」
クライド様からギロっと冷たい視線を向けられた銀髪の男性は冷や汗を流しながら、丁寧に説明をする。
「お、お一人でいらっしゃるのを目にしてしまい、あまりに美しい女性でしたので彼女と話がしたいと思いましてバルコニーにお誘いを致しました。ですが、まさか陛下の婚約者様だと知らず……。大変失礼を致しました」
クライド様の機嫌を損なわないように慎重に話していることが伝わる。
彼の言っていることは概ね事実だ。
きっと内心ではとんでもないことをしてしまったのだと後悔しているのだろう…。
それにいつの間に大勢の貴族達から視線を向けられている。
皆興味本位で見ているのだろう。
「二度と私の妻に触れるな。二度目は無い」
クライド様は私の肩を抱き、その場から歩き出した。
「あっ…あの…クライド様…」
「遅くなってすまなかった。少々急ぎの仕事を片付けていたものだったからな」
私達が会場内を歩く中。
様々な声が聞こえて来た。
「さっきの見ました!国王陛下凄く素敵でしたわね~。婚約者様を男性からお護りするなんて」
「驚きましたわ。噂では冷酷無慈悲で女性なんて興味がないとのことでしたのに…。婚約者様のことを大切にしていらっしゃるのね」
先程私を助けたことで彼の評判は上がっていた。
彼に連れられてたどり着いたところは椅子が用意されていた場所だった。
「少し疲れただろう。休んでいろ」
「有難うございます…」
彼の厚意に甘えて私は椅子に腰を掛けた。
「言い忘れていたことがある」
「何でしょうか?」
突然、思い出すかのように言う彼の言葉に私は緊張してしまう。
「そのドレス似合っている」
「……!」
ふっと笑うクライド様の顔に私の胸が高鳴った。
まさか彼から褒めて貰えるとは思いもしなかった。
私は胸の内から湧き上がる感情と気恥しさを感じながらもお礼を口にする。
「……有難う御座います」
その時。
「お兄様!?」
一人の女性が現れ、クライド様の腕に身体を密着させるように抱きついた。