「夜会ですか…?」
翌日の昼下がり。
私は庭園でクライド様と二人でお茶をしていた。
私の部屋に突然やって来たクライド様は無理やり私を部屋から連れ出し、庭園に連れて来たのだ。
昨日の今日でクライド様とは顔を合わせたくはなかった。
本当は断ろうとしたけれど彼にはお見通しだったみたいで王命を使って私を席に座らせた。
不本意ながら彼に従うしかない。
クライド様とお茶をする中でクライド様は驚きの発言をしたのだった。
「それって私も参加するのですか?」
訊ねる私にクライド様は呆れた表情で答える。
「当たり前だろう。他に誰がいる?」
「でも、私はや夜会どころか貴族のパーティーにも参加したことはありません。もし何か粗相をしてしまったら、取り返しがつかないことにでもなるのでは……」
「問題はない。お前はそれなりに作法は出来ている方だ。それに心配なら教育係を付けてやし、ドレスも送る。お前は出るだけで良い。全て私に任せておけ」
クライド様の申し出は助かる。
作法だって本当はまだ満足いくものではないかもしれない。
貴族令嬢が受けるべき教養を私は受けさせて貰えず、見よう見まねで何とかやっている状態だ。
今のまま夜会に参加するよりは教育係の元で学んだ方が上達はするかもしれない。
本当は夜会に参加するのは乗り気では無いが、
城にいる以上そう言ってはいられないだろう。
私はクライド様の好意を素直に受け取ることにした。
「有難う御座います」
私は彼にお礼を口にする。
それにしても彼は私に対していつもと変わらぬ態度で接している。
昨日のことが無かったかのように……。
(本当にいつもと変わらないわね…。この人にとって、あのことはどうでも良いことだったのかしら…?)
目の前の彼に対して不満が募っていく。
そんなことを思っていると彼は静かに口を開いた。
「昨日のことだが…悪かった…」
クライド様は私に謝罪をした。
どうして…?
昨日はキスをしたことは謝ることをした訳では無いと言う態度だったのに…。
「昨日言ったことは本当だ。だが無理やりあの場でするような行為ではなかった…。それだけは反省している…」
クライド様は席から立ち上がって私を見た。
「今日はそれだけお前に伝えたかった。夜会の件準備をしておけ」
彼はそう告げるとその場から去って行った。
彼が去って行ったあと、目の前に置かれていた紅茶を一口飲んだ。
(あのクライド様が素直に頭を下げてくるなんて……)
私の中の彼のイメージでは自分の我を突き進めるタイプだと思っていた。
だけど私が最初に彼に感じていたものと同じだった。
彼は優しい。
昨日私が傷ついた顔をクライド様に見せてしまったから彼は私に謝ったかもしれない。
クライド様は私以外の人間にあまり興味が無い。
昨日の食事の時でさえ、人の気持ちが理解できないと言っていた。
彼は王族だ。
生きてきた環境の中で誰も彼に愛情を向けなかったのだとしたら自然とそうなっていたのかもしれない。
私はヨルと出会い、心の支えがあった。
だけど、もしヨルと出会わなければ私もあの家で生きている意味を持てなかったのかもしれない……。
(もういい…。忘れよう。その方がお互いのために良いわ)
本当は良くないけど…。
彼は謝罪をしてくれたことだし、これ以上引きずっていても仕方ない。
私は犬にでも噛まれたと思って忘れたことにする。
そして。
私は目の前にあるケーキ、クッキー、氷菓子などのキラキラしたお菓子を無言でやけ食いした。