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第5話 冷酷王と灰被り令嬢の初デート

ガタン、ゴトン。


揺れる馬車の中。

私とクライド様の二人は馬車で街に向かっていた。


彼は馬車の中で何も話さず景色をばかりを眺めている。

私は少しだけ気まずくなり、彼に話しかけた。


「陛下。これからどちらに向かわれるのですか?」

「クライドだ」

「えっ…?」


「私のことは名前で呼べ。私達は近々婚姻するのだからな」


彼はじっと私を見つめて告げる。

これは断っても名前で呼ぶように促されるだろう。

国王陛下を名前で呼ぶのは少し気が引けるけど仕方ない。

大人しく従った方が良いかもしれない。


「分かりました。クライド様」

「それで良い」


クライド様はふっと優しい笑みを浮かべた。

彼がこんな風に笑った姿を見るのは初めてで、思わず彼の美しさに見蕩れてしまった。


クライド様はふと思い出したように私に話し掛けた。


「アリス。お前に話がある」

「何でしょうか?」

「お前の家族についてだが…」


ドクンと私の中で緊張が走った。


両親はクライド様が私をご所望だと知り、喜んで私を差し出した。

地味で可愛げがない私を厄介払い出来たと喜んで。

きっとこれが妹のミカなら引き止めていたはずだ。

あの人達はミカのことを溺愛していたのだから。


だからこそあの家族達に何の未練もない。

今まで私を虐げ、妹と比べ続けていた両親、妹は私にとってどうでも良い存在だ。


「あれ達は私がこの国から追放した」

「追放ですか…」


「そうだ。フィールド家は随分前から後ろ黒い噂があった。確かめてみたところ国に内密で隣国から密輸を行っていた痕跡を見つけた。だから追放した」

「そうだったのですね……」


私はほっと胸を撫で下ろした。

処刑にならずに良かったのだと心のどこかでそう思ってしまう自分がいた。

あんな人達でも自分の親だ。

それに人が死ぬところは見たくない。


私は隣に座るクライド様をチラッと見る。

彼は冷酷無慈悲と呼ばれた方。

今は私に親切で優しいが私は彼のもう一つの顔を知らない。


「奴はお前を虐げ、虐待していたらしいな」

「えっ…」


「悪いが調べさせてもらった。実の妹と比べ、姉の方を使用人どうように扱うとは…」

「あの人達はそういう方達なのです。だから諦めました…」


「奴らには罰を与えた」

「罰…?」


「奴らには馬車を使う許可すら与えていない。徒歩で向かうほかない。それが罰だ」

「何故それが罰になるのでしょうか?」


「この国から国境を超える時森には頻繁に凶暴な野犬が大量に出るという噂がある。野犬と遭遇し、必死で逃げたとしても隣国までの距離は長い。無事に隣国に辿り着くまで命があれば良いがな」


クライド様は冷徹のように冷たく笑みを浮かべた。

その顔を見て私はゾクッと血の気が引いていくのを感じた。

彼は残酷だ。

今まで贅沢な暮らしをしていた貴族達が徒歩で国境を越えて隣国まで渡ることは苦難だ。

それに加えて野犬まで出ると彼らは為す術も無く無惨に食い殺されるか、或いは隣国に辿り着けたとしても庶民以下の姿に落ちぶれてしまうだろう。


それを理解した上でこの国から家族を放り出したのだ。

胸の内がスカッとした感覚はありつつも、私はクライド·パシヴァールという人物の得体の知れない恐ろしさを実感した。


「着いたようだな……」


気がつくと馬車は既に目的の場所に到着していた。

馬車のドアが開き、先に馬車から降りたクライド様から差し出された手を取って私は馬車を降りた。

着いた先は一つのお洒落な店。


目の前にある店は以前ミカが憧れていた貴族御用達の有名店のブティクだった。


この店は他の店とは違い、店が客を選ぶというもの。

だけど店で扱われるドレスや宝石、アクセサリーはどれも一級品ばかりで中には隣国の品も取り扱っているという噂だ。


まさか王族御用達になっているとはしなかったけれど……。


「行くぞ」

「は、はい…」


クライド様に連れられて店内に足を踏み入れると室内はサロンのような上品で美しくお洒落な空間が広がっていた。

初めて見る光景に私はただ驚くしか出来ない。


すると一人の物腰が柔らかそうな若い女性店員が私達の前に洗われた。


「本日は当店にお越し頂きまして有難う御座います国王陛下」

「挨拶は良い。ドレスを数着とドレスに合うアクセサリーを用意してくれ」


店員は私に微笑みながら訊ねる。


「何かお好みのものはありますでしょうか?例えばドレスのお色とか」

「いえ…あの、良く分からないのでお任せでお願いしても宜しいでしょうか?」


普段ドレスなんて着ない私は良く分からなかった。

いつもは侍女服ばかりを身につけていて、それが今までの私の服装だった。

王宮に着てからは侍女が毎朝ドレスを選んでくれるのだけど、着替え、入浴まで手伝ってくれるとは思いもしなかった。

ずっと一人でやって来ていたのだから。


「分かりました。では、こちらは当店で人気の物や流行りのドレスを何点か選ばさせて頂きます」

「有難うございます」


店員の言葉に私はほっとする。

でも、令嬢達に流行りのドレスなんて私に似合うのだろうか……。


「私は別の場所で待たせてもらう。終わったら声を掛けてくれ」


「承知致しました。では、ご令嬢様こちらへ」

「はい」


私は店員に促され、別室へと連れて行かれた。



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