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第4話 こじらせた初恋

「良くお似合いです!アリス様」

「有難う…」


私の専属侍女のカミラはうっとりした表情でそう言った。

クライド様とのデートが決まった後、カミラは気合いを入れて私を着飾った。

金髪の髪を編み込みにして結い上げ、ラベンダードレスに最近の流行りのデザインもの。

アクセサリーもシンプルで上品なものを付けられている。


以前の私と比べ物にならないくらい上品な令嬢の姿になっていた。


「ふぅ。頑張りました!きっとこれならクライド様も気に入ってくれるはずです!」


カミラは額の汗を拭う仕草をし、達成感に満ちた顔をしていた。


「でも、ただ街の中に行くだけなので…」

「何を言っているのですか!間違いなくデートですよ!それにクライド様はアリス様のことをこのうえ限りなく、全力で気に入っていられます!!」


カミラはアリスにずいっと顔を近づけて、凄んだ表情で言う。


「女性に興味がないあのクライド様が自ら選んだ女性…それはアリス様だけなのですよ。これが愛されていないわけないじゃないですか!それに…」


カミラは両手を組んでうっとりした表情で話す。


「美しいと評判のミカ様よりアリス様を選ばれた。きっと国王陛下の凍りついた心を癒したのはアリス様だったはず…。そうに違いないわ!

ロマンス小説そのものではありませんか!!」


「あの…カミラ。そんなことは…」

「とにかく、今日は楽しんで下さいね。アリス様」


カミラは私に笑顔でそう言った。


「有難う。カミラ」


カミラはクライド様の命令で私の専属侍女となった。

彼女はロマンス小説好きで歳も私と近い。

その所為もあって侍女らしからぬ気楽に話し掛けて来てくれる。

性格も天真爛漫で仕事も完璧。

彼女のような有能な侍女が私に付いてくれて良いのだろうかと思ってしまうが、正直有難い。


私はクライド様のことは嫌いではない。

だけど、まだ私の心にはヨルがいる。

現状ヨルの立場を考えると彼の手を取ることは出来ない。

そんな気持ちの国王陛下の妻になるなんてクライド様に不誠実だ。

だから私は二人の手を取ることはせず、静かにここを去った方が良い。


平民としてなら自由に暮らしていけるかもしれない。


「表に馬車を用意しておりますので、そちらにお願い致します。私は用がありますので失礼させて頂きます」


「分かったわ」


カミラが部屋を後にして暫くした後。

私は部屋を出て城の門へと向かっていた。

長く続く廊下を一人歩いていると途中、前を歩いていたヨルの姿が見えた。

ヨルは私の気配に気づき、振り向いた。


「ヨル…」

「何だ?その格好…」

「嘘…変かな?似合わなかったりする…?」


不安気に言う私にヨルは少し照れたように私から視線を逸らして頭をガリガリと掻きながらボソッと言った。


「似合ってるよ…か、可愛い」


思いがけないヨルの言葉に私の頬は熱くなった。

今まで可愛いなんて言われたこと無かったからどう答えていいのか分からない…。


「あ、有難う…」


「そう言えばお前、そんな格好して何処に行くんだ?まさか陛下と出掛けるのか?」

「そうだけど…」

「ふぅん……」


ヨルは私の言葉に対して腕を組み、あからさまに不機嫌になった。


彼に対して疑問を抱えたままでは気持ちが落ち着かない。

気づいたら私はヨルに訊ねていた。


「ヨルはどうして陛下にあんなことを言ったの?」

「お前を譲れって言ったことか?」

「そうよ!あんなこと言ったら、あなた自分がどうなるかってことぐらい分かるでしょう!」


彼を問い詰める私にヨルは漆黒の瞳で私を見つめて真剣な顔で言った。


「お前を取られたくなかったから」


彼の言葉に私の中で熱が急速に上がるのを感じた。

長年の初恋の相手から想いを告げられて嬉しくないはずがない。


「でも…私は……」


私は思わず後ずさってしまう。

あまりにもヨルの目は真剣で気持ちまでも見好かれそうだったから。


ぐんっ!


突然、私は何かに躓き、身体のバランスを崩してその場に転びそうになった。

だけど襲って来る痛みはなく、変わりに抱きしめられる感覚があった。


「!」


私の近くにヨルの顔があった。

私は慌てて彼から逃れようとする。


「ち、近い!離して!」


身体を開放された私はまだ早鐘を打つ胸を誤魔化しながらヨルにお礼を述べた。


「有難う…。助けてくれて。私はもう行くから…」


ここにいてはマズイ…。

赤くなっている顔をヨルに見られる訳にはいかない。

私はその場を去ろうとすると、急に彼から手を掴まれた。


「待てよ」


私が振り向いた瞬間。

ヨルは私の耳もとで甘く囁く。


「昨日言ったことは本気だから…」


彼の言葉に胸が高鳴る。

私だってヨルのこと一日も忘れたことはなかった。

叶うことなら一緒にいたい。

だけど…────。


「じゃあ、どうして迎えに来てくれなかったの?」


思わず言葉が溢れてしまった。

それは私が今まで心奥底で思っていたこと。

私は彼のことをずっと待っていた。

だけど、相手に期待だけを押し付けて何もせずに待っていた私にも責任がある。

ヨルを責められるはずがないのに……。


「それは…」

「ごめん…。今のは忘れて…!」


口ごもるヨルに私はハッとして思わずその場から逃げるように駆け出した。


諦めるって決めたのに。

こんな気持ちになるなんて…。


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