運命なんて自分で切り開かないと変わらない。
自分で行動を起こさない限りは。
今になって私はそのことに気づいてしまった。
自業自得だ。
ただ待っていただけなのだから。
「!?」
突然、ガタッと馬車が揺れ、その場に止まった。
何があったのかしら…。
私は外の様子が気になって慎重にドアを開けて、様子を伺うように馬車から降りた。
目の前には馬車を操っていた従者が倒れており、近くには数人の盗賊達がいた。
盗賊達に襲われている現状を目の当たりにしてしまい、思わず身体が震えてしまう。
「!?」
「コイツは上玉だな。これは高く売れそうだぜ」
背後から盗賊に両手を捕まれ、身動きを封じた。
私は奴隷の商品として売られるか、もしくはここで殺されるかもしれない。
こんな場所で死にたくない……!
私は身を捩りながら必死で抵抗する。
「離して下さい!」
「うるせぇ女だな。大人しくしろ!」
盗賊は抵抗する私の顔を殴ろうとした。
ダメだ……。
殴られるのを覚悟した私は目をぎゅっと瞑った。
突然、私は身体ごと後ろに引き寄せられた。
そして耳元で愛しく、懐かしい声がした。
「そのまま目を閉じていろ」
何が起こったのか分からなかった。
聞こえるのは誰かが次々と倒れる音と罵声、血飛沫の音だけ。
暫くして音が聞こえなくなり、彼は静かに告げた。
「もういいぞ」
彼の言葉に従い目を開く。
地面には盗賊達の死体が転がっており、馬車の近くで従者は気絶していた。
そして私は助けてくれた彼に視線を向けた。
漆黒の髪、黒曜石のような瞳。
力強く逞しい背中。
あの時と一緒だ。
長い間焦がれに焦がれて待ち望んだ人。
私は高ぶる気持ちを抑えきれずに今にも泣きそうな顔で彼の名を呼んだ。
「ヨル…!」
「アリス…」
気づいたら私は彼の元へと駆け出していた。
ヨルは手を伸ばし、私を抱きとめた。
ヨルは昔のように優しい表情で言った。
「約束どおりお前を迎えに来た」
涙を流しながら私は顔を上げて嬉しさを滲ませた顔で彼に答える。
「ずっと、ずっと待っていた……」
「悪い…。遅くなって…」
ヨルは私の涙を指で掬い取り、愛しそうに私を見つめた。
「俺もお前にずっと…会いたかった…」
私を抱きしめる彼の力が強くなった。
ヨルは私のことを覚えててくれた。それだけで救われた気持ちになった。
ヨルは涙する私の背中を優しくさする。
やがて落ち着いた後。
彼は私を気遣うように訊ねた。
「大丈夫か?」
「ええ。ところでヨルは今まで何処にいたの?」
「王宮にいたんだ」
「えっ…?王宮に…?」
何故だが私の中でざわりと胸騒ぎを感じた。
まさか彼は…
「俺、今王宮で国王の従者をしているんだ」
ヨルの言葉に私は目の前が暗くなる程のショックを受けた。
****
夕方。
私はヨルに連れられてパシヴァール国の王都の中央にある王宮に辿り着いた。
馬車は盗賊達から襲われてしまった際に壊れてしまった為、ヨルと他の騎士達により私と馬車を操っていた従者は王宮に連れて来られた。
従者の傷は大したことはなく、翌日に屋敷に送り届けられるとのことだ。
そもそもヨルがあの場に何故いたのか、まだ知らない。
彼に問い質す前に彼は自分の仕事へと戻ってしまった。
私は王宮に着いた早々に王宮の侍女達に入浴で身体を磨かれ、身支度を整えさせられた。
美しく淡い色のピンクのドレスにアネモネのイヤリング、胸にはシンプルなダイヤのネックレスが身に付いている。
国王と面会する為に着飾られた訳だけれども、
こんな格好するのは初めてだ。
私は侍女に案内されるがまま王宮内の廊下を歩く。
国王陛下とは一体どのような人なのだろうか…。
そんなことを考えるうちに私は国王がいるとされている美しい薔薇の庭園に辿り着いた。
「この中に陛下はいらっしゃいます。私はここで失礼致します」
「あ、ありがとうございます」
去って行く侍女にお礼を言いつつ、私は薔薇の庭園の中に足を踏み入れた。
真っ赤な真紅の薔薇が美しく咲き誇る庭園の中に流れるような綺麗な銀髪を一つに纏めた美しい男性が一人佇んでいた。
きっと彼がクライド·パシヴァール。
この国の国王だ。
「陛下。大変お待たせ致しまして申し訳ございません。本日から王妃となりましたアリス·フィールドでございます」
私はドレスの裾を摘んでカテーシーをする。
セシル様は振り向き、静かに言った。
「顔を上げろ」
私は彼の言葉に従い、顔を上げる。
クライド様は私を愛しむような視線を向けた。
誰もが見惚れてしまうようなその表情に私は思わず言葉を失った。
「会いたかった…」