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18.専門学校時代・運がついている

…………まだ救いの手はある、常にしているオムツ代わりのナプキンだ。

しかし、ナプキンはあくまで生理用であり、ウンコを受け止める為に作られた物ではない。


ウンコと言うものは一度、出て来てしまうとどんな人でもたとえ神様でも止めようがない、突き進んで行くのみ。


ウンコの前にナプキンは敗北し、止まらぬウンコの決壊にかつて経験した膀胱の堤防の決壊と重なる。ひとまず私は第一波の決壊が停止した所で、ひたすら彼に謝り続け、コンビニに寄って欲しいと告げた。

言われた当初は戸惑っていた彼も、車内に漂って来たヤツ・・の匂いで全てを察して、無言の全速力でコンビニへと車を走らせた。

コンビニへ向かう間、彼は車の窓を全開にしたので車内に入って来る風は、車のスピードと相まって強風へと進化し、勢いよく私の顔をぶん殴って来る。時間をかけて整えた髪型がぐちゃぐちゃに乱れてしまうも、今の私にはそれがお似合いな気がした。

てか、んな事はどうでも良い。とにかく今は尻のひどい惨状を何とかしなくては………。


コンビニの駐車場に彼が車を停めた瞬間、決死の形相で私は車から降りて、トイレへと走り抜けて行った。


頭の中では。


実際は尻をカバンで隠して、ヤツを落とさないようなるべく揺らさずに前屈みでヒョコヒョコと、綱渡り状態で慎重に歩いて行く。そんな自分の姿に、私の頭の中はオシッコを我慢して歩いていた学校の帰り道の情景が思い浮かんでしまい、変な物懐ものなつかしさを感じながらゆっくりとトイレへたどり着いた。


幸いな事にコンビニのトイレは空いていて、何とか緊急避難はする事が出来た。中に入った私はゆっくりと、ジーンズと下着を下ろして全ての悲惨な惨状を把握はあくする。

ヤツから目を逸らして、ここから逃げ出したい……、いや、それだけじゃ足りない…この世から消え去りたい。

…でもこれは私は出した物、自分が出したのは自分自身で落とし前をつけなければいけないのだ。


取り合えず大きなものは処理出来たのだが、下着は救いようがなかったのでトイレットペーパーでグルグル巻きにしてゴミ箱に捨てようとするも、既にウンコ臭いナプキンを入れたのに何だか下着まで入れるのは店の人に申し訳ないと思ってしまって、自分のバッグには悪いがゴミ箱代わりに突っ込む事にした。

そして被害は外観のジーンズにも重大に及んでいたのだが、尻丸出しで出歩く訳には行かないので、さっきのようにできる限りバッグで尻を隠しきろうと腹を括る。

だがその前に……、再び腹に訪れた第二波・第三波を私は早くおさまるよう祈りながら放出するのだった。


何十分もかかって放出は終わりを迎え、来た時より軽くなった体で長居したトイレからやっとのことで退出。コンビニと言う全国展開してくれるチェーン店に心の中で、何回もの感謝と私の次に入るお客さんに謝罪を言いながら、私は店から去って行った。

外に出ると、匂いが分散され誤魔化せるような気がして、少しの余裕が持てるも問題は車の中だ。彼に一体何て言って説明、弁明をすれば良いのだろうか…、腹はスッキリしたのに胸は重苦しく自分にのし掛かる。

まだ考えがまとまらない頭で、駐車場を見渡す。

………一瞬、間が空いて私は違和感に気がついた。


どんなに駐車場を見渡せども、彼の車は見つからなかった。他のお客さんの車はあるのに、肝心の彼の軽自動車はいくら店の周りを探しても、影も形もない。明らかにさっきのウンコの時とは違う冷や汗が、流れ出る。

もしかして、決壊した時に車のシートも汚してしまったのでは…?ジーンズの惨状を見ればその可能性は高い。それで彼はブチギレて帰ってしまった?

そんな予想はたわいもなく出来てしまう。私は震える手を抑えながら、急いで彼にメールを送った。車内でウンコをしてしまった事、シートをウンコを汚してしまった事、全部ウンコのウンコ謝罪文である。

ひょっとすると彼は何か用事があって少し外しているだけかもしれない、と言う微かな可能性にかけて私はコンビニの前で、メールの返信を待ち続ける事にした。

そうだよ…ひょっとしたらひょっとすると、彼は漏らした私のためにタオルとか買いに行ってくれたのかもしれないじゃないか。それか車を洗いに行ったのかも知れないし。

ひたすら自分に都合の良い妄想しながら、携帯の受信音と彼がクラクションを鳴らして来てくれるのを、ただ待ち続けた。


それから三十分以上も経った。

でも、メールの返信も着信も彼の車も来る事なく…、念のために電話をかけてみるが耳元に呼び出し音が響くだけで、彼が出る事はなかった。

私は駅に向かって歩き出す。バレないようにバッグを尻とピッタリ合わせ歩いているので、少し不自然な姿勢だが仕方がない。ここから駅まで十分くらいだから、まあ良い運動だと思えば…と思っていたのだが、やっぱり私は大間抜け者である。

車、で十分じゅっぷんの距離である事をすっかり忘れていて、その事実に気がついた時にはもう何十分も経った頃であり、そこまで来ると何故か私も意地になって、最後まで歩き切ってやるとひたすら駅を目指して足を進めた。

尻とカバンを一体化して歩く事、一時間以上。駅の姿が視界に見えた時、妙な達成感と喪失感に包まれながら私は歓声のないゴールを達成したのだった。

とは言っても、本当のゴールはまだ先。私は家を目指してバスに乗り込んだものの、こんな尻では座れやしないので揺れるバスの中、手すりにしがみついて体幹を鍛えながらゴールへたどり着いたのだった。


長い間、私の尻の相棒となってくれたショルダーバッグには感謝してもしきれないほどお世話になったのだが、汚れた下着を入れていた代償かウンコの匂いが取れなくてなってしまい、あえなく殉職してしまった……。


一つ幸いだったのは帰りのバスの中は周りに乗客はいなかったので、匂いで迷惑をかけずに済んだのは運がついていた、………と言えるだろうか。


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