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14.専門学校時代・変化

新しい学校生活と一人暮らしは、思った以上に上手くいっていた。


最初は。


確かに一人での食事・掃除・お金の管理、などは大変だったが、それ以上に………。

トイレが最高に快適だった。家には自分しかいないからトイレ長くにこもったってノックをされて急かされる事がない、匂いを指摘をされる事もない、ドアを全開にして裸でウンコしたっていい。


そして何より、近所の人に排泄音を聞かれる心配がなく、自ら消音ボタン化しなくてもいいんだ!


私は人生で初めて、居心地良くトイレタイムを堪能たんのうした。だけどそう簡単に人間の身に染み付いてしまった習慣は直せないもので、意味もないのに出す前に水を流してしまうのを何回も何ヶ月も繰り返し、無駄な水道代が掛かってしまうのであった。



学校では擬態が上手くいったお陰か、私に初めての女友達が出来る(相手はどう思っていたか分からないが)。空いた時間に喋ったり、一緒にご飯を食べたり……、いつまた前みたいにいじめられないか不安もあったけど、単純に嬉しくて私は浮かれていた。

でもその感情は純粋でキレイなものではなくて、自分が周りの人と同じように友達が出来たと言う、"普通に近づけた"不純な汚い喜びであった。



そしてまたも、私の体に最大級の変化が訪れる。


ウンコが下痢へと変化したのだ。


変化の始まりは、授業でプレゼンテーションの課題があった時。その課題は、スクリーンなどを使い、調べた美術史をみんなの前に立って発表すると言った内容であった。

私は人前の立つのが大の苦手で、小中高でそういう授業があると具合悪いと保健室に駆け込んだり、学校をズル休みしたりして、全て逃げて立ち回って来た。


でも私は変わったはず。


確実にまともに普通へと、近づけている今なら逃げずに乗り越えられるかもしれない……、いや、いけるはずだ!

こうして課題の発表日までの二週間、私は気が気でない日々を過ごしていた。発表まで二週間、一週間、五日、三日、…………と日にちが近づくにつれて、想像するだけで動悸と汗が止まらなくなり、何故かウンコが近くなってトイレへ行く回数が増えたのだった。


それは只者のウンコではない。腹に「キュゥゥウウウ」と感じる、腹の痛みと言うかウンコがしたくなる痛みと言うのが、我慢出来ないほど強くなって行き、外でも家でもトイレに駆け込む回数が徐々に増えていった。

前のウンコはカチカチに機嫌が悪かったのに、今のウンコはゆるゆるでやる気のない奴と変貌した。便秘だった頃は下痢の人が羨ましかったのに、いざ自分がなって見ると下痢も相当辛い事を理解した。

こんなの分かりたくもなかったが良く考えれば、私は下痢も便秘も両方の苦しみが理解できる人間へと、ある意味成長できたのだ。


…………正直、こんな成長はしたくなかったが。


何でこうなったかは、緊張とストレスが原因だと誰が考えても分かるが、なぜ便秘から下痢に変化したのかはまるっきり意味が分からずじまい。もしかして体が成長して体質が変わったのだろうか。

…いや、ウンコが私を逃さまいと、便秘から解放した途端に今度は下痢の呪いをかけたのかも知れない。

囚われてしまった負のウンコスパイラルから、何とか逃げようと私はもがいた。便秘の時とは真逆に、お粥・豆腐・うどん・パン・卵など、お腹に優しい食事をし、冷やさないようにと常に腹巻きをして、下剤ではなく下痢止めを飲む。念の為、外では万が一漏れてしまった時の対策としてナプキンを毎回付けて学校へ行っていた。

前は出したくても出て来なかったくせに、今は出て来なくていいのに出て来やがる。

ウンコとは本当に勝手な奴だ。



そして発表当日、下痢対策で私は朝から何も食べずに学校へ行ったものの、人間の体とは本当に不思議なもので…食べてなくてもウンコがしたくなった。しょうがないので一回学校のトイレに行くも、出ない。当たり前だ、朝食代わりに下痢止めを飲んできたのだから出る訳がないのだ。

しかしどうしてか、ウンコがしたくなる。でもいくら腹に力を入れても出てくる気配はない、だがウンコは出たがって腹で暴れまくって腸をぶん殴ってきても、出ない。

私は止まらないウンコの痛みに悶絶した。


後に判明したが下痢は、全く出さないで薬でウンコを閉じ込めてしまうと、逆にお腹に溜まって出したいのに出せなくなりかなりの時間、痛みに苦しめられるのである。そんな事になるなんてまだ下痢初心者だった私が知る由なく…、こんな重要な事なら、学校の義務教育で教えて欲しかったくらいだ。


発表の時が一刻一刻と迫って行く。

それにつれて、その症状は酷く増していった。脇・背中・手の平・足の裏・臀部でんぶと体中に汗をかき、顔は青ざめ、時折反抗期のウンコが腹を突き刺す。

しかし私は負けるわけにはいかない、課題をこなして、みんなと同じ普通の学生になるんだ!




私はウンコに負けた。




負け犬は早々と、学校から安寧の地に向かって逃げ出すが、まだそこに辿り着くには電車と言う監獄が待ち構えているのであった。


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