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13.高校時代・卒業

そんなモヤモヤとウンコを抱えながら私は高校最後の一年を補習と共に過ごし、平穏無事多事多難にギリギリ卒業できたのだった。


校長先生から卒業証書を受け取った時、先生は喜び母は感動の号泣、私は抜け殻の意気消沈。むしろ証書を破り捨てたいくらいだったが、まだその時は理性を保っていたので、私は感謝の言葉を先生と母にかけ、平然と普通の生徒の演技をする事が出来た。


やっと学校からおさばらしたと思ったら、たった一ヶ月後にはもう新しい学校に行かなければならない。

一人で暮らすアパートも決まり、引越しの準備は万端。絶対に忘れてはいけないのが、相棒のゴム指袋の元となるゴム手袋と、肛門の薬、下剤、安定剤、右人差し指本人、と全て私と共に出発できる用意は済ませ、後は専門学校への入学のみ。


ここで私の体に重大な変化が訪れる。驚くべき事に、生まれてからずっっっっと苦しめられていた便秘が、嘘のように治ってしまったのだ。トイレの便座に座って、二十分もすれば綺麗にスッと上品良くお出かけして行く。


しかも、しかもだ、あの、…………………指を入れずに。


ウンコは独り立ちしたのだった。


誰の助けも借りず、自ら外へ出て真面目に更生したウンコの姿に、私は感動した。色んな食物繊維を食べたり、飲んだり、時には薬も飲んだりしても、頑固に抵抗していたのが高校卒業と同時に突然、憑き物が落ちたかのような変貌ぶりである。

学校のストレスに解放されたせいなのか、単に体が成長して体質が変わっただけなのか、知らないし分からんがとにかく私は嬉しくて、裸で小躍こおどりをしたいくらい人生最大の喜びをウンコに感じていた。長年肛門の相棒と言う不名誉な役職を勤めていた人差し指も、深爪になる事なく爪を伸ばせられるし、やっと指本来の役割を果たせるのだ。


唯一、痔だけは良くならなかったが今の私にはどうとでもない、些細ささいな事。


このまま調子良くいけば、私の目指している普通になれるかも知れないと思えたが、油断は禁物だ。出るようになったとは言え未だに上手く踏ん張れないので、一から練習する事を決意する。

その方法は、風船を膨らませると言った方法だった。

どこで見たのかもう忘れてしまったが、風船を膨らませるだけで腹筋が鍛えられると、頭の片隅で覚えていたので実践してみる事にした。

思えば私は、小さい頃から今まで風船を上手く膨らませた事が一度もない。十八年サボっていた踏ん張りの力を取り戻すために、腹とほっぺの力を入れて、風船を膨らませる練習を繰り返す。


だが、私の辞書に根性という文字はない。


ほっぺたが痛いと言う理由言い訳で、たった二、三日で風船は行方不明になった。



それと来たる入学式に向けて、気をつけなければならないのはいじめである。

専門学校でまたいじめられでもしたら、元の木阿弥もくあみ。また振り出しの「ウンコマン」人生に戻ってしまう。

それだけは避けなくてはいけないと、私は勉強した。専門学校へ通うまでの数週間、化粧・喋り方・表情・流行・髪型・服装、………風船とは違ってこっちの勉強は入念に、苦手な鏡に悪戦苦闘しながらやり続け、無事に春の四月に入学式を迎える事が出来た。


慣れないスーツとパンプスの格好に、髪も染めて化粧もバッチリと。人差し指にはあの・・薄い黄土色ではなく薄ピンク色のネイルが綺麗に輝いていて、なんだか嬉しかった。

…正直、化粧は濃くやりすぎた気もするが、初めてにしてはよく出来たと自負している。大勢の新入生の中に私は上手く擬態し、入学式の会場へと向かう足取りは靴擦れで痛むが全く気にならない。


だって私は、ウンコマン・オムツ女・屁こき妖怪・オナラ女・ウンコ指を卒業して、こうして普通の学生の中に紛れ込めたのだから、それだけでも満足だ。


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