そしてここで、ウンコ、オシッコ、肛門、生理、に続いて新たな敵が浮上してくる。
それはガス、又の名を屁、通称オナラである。便秘だとウンコが腹に溜まってガスが出やすくなり、私はよく屁をこいた。
中でも特にひどくなるのが、学校の授業中。
便秘だけではなく、やはりストレスもオナラに関係しているのだろうか。学校の授業中に何故かオナラがボコボコと生成されて行き、お呼びでないのに肛門のドアの手前まで来てしまって外の世界へと飛び出そうとしやがるのだ。
これは死んでも出す訳には行かない。教室でオナラなんかしてしまえば、ただでさえいじめられっ子の私の状況がもっと悲惨になるのは目に見えている。
そうなれば授業なんて度外視、肛門に全集中しドアを力強く閉じてオナラを押し返す。
すると…………、
「グオォオオォオオ」
お腹から地響きのような壮大な
みんな真剣に授業なんて聞いてないので、異音がすればすぐ敏感に察知し、私は見事「屁こき妖怪」と命名されてしまうのであった。便秘やストレスが治ればオナラも減るだろうが、今は治す手立てなどない立ち往生状態。
だったら、方法は一つしかない…………。
学校に行かなきゃいいんだっ!!!
中学校は義務教育で授業なんて出なくたって卒業は出来ると知った私は、中学校生活最後の一年をほとんど行かずに過ごす事にした。いじめから解放されて多少オナラの頻度はマシになったので、やはりオナラはストレスにかなり影響を受けている事を切実に感じたのであった。
しばらくの間、私は悠々自適の快適不登校生活を送るのだが……中学が終わる頃になると誰にでも必ず訪れる最悪のイベントを、私はすっかり頭から抜け落ちていた。
それは、高校受験。
不登校をのんびり満喫していた私が、自宅学習なんてしているはずもなく頭の中はすっからかん。学歴が中卒で終わる子供は勘弁して欲しい母は、頭を叩き直してもらおうと家庭教師を雇って対抗した。
女性の先生が初めて私の家に訪れた際に、まず私がどんな学力のレベルなのか確認するためのテストを受けた………、のだが。
テストの結果を見た先生は受け持ってしまった子供のあまりのバカさに絶句し、めちゃクソに怒られた私は泣きながら知識を頭に叩き込んで、高校受験を迎えたのであった。
…いざ決戦の高校受験当日、静かな教室で受験生が一斉に試験を受けている。聞こえるのは鉛筆、シャーペンの書く音のみ、しかし私は試験用紙を目の前に、汗が滲む手で鉛筆を握ったまま時が止まっていた。
まずい、……………オナラが出る。
しばらく学校からご無沙汰していたので、すっかり忘れていたが今の私は便秘に受験の緊張とストレスでオナラにとっては最高のコンディション。大きなオナラが、ドアをどんどんと激しく叩き始めた。
これは非常にまずい、もう試験なんてどうでもいい、先にこのオナラを何とかしなければ……。
だが、打開策なんてものはない。一旦、トイレ退出しオナラを処理する事も出来るが、時間が迫る中で試験用紙がまだ白紙状態の私にはまったりトイレに行っている時間など、存在もしないのだ。
………もう、腹を括ろう。
「…………グォォオオオォオオオ」
盛大なオナラ腹の音が、教室中に轟く。
「グオ」「ゴォオォォオオ」「グゥウウ」「ゴゥゥウウ」
一回だけではなく何回も、リズミカルにビートを刻んで教室中に響かせ続けた。
その後休憩時間になり、廊下で待機していると向かい側に二人組の女子が試験内容について喋っていた。
盗み聞きしていると、二人の会話の内容は試験中に聞こえた異音の話へと変化する。
「前の方からしてたけど、もしかしてお腹鳴った?」一人が疑って聞くと、もう一方は全力で否定する。
「違うよっ、鳴ってたのは私の前にいたあの人!」
その子は怒り気味に私に指を差した。
指を差されたものの私は反論も何もする事できず、せいぜい聞いてない感を出して自分の爪をいじるフリをするしかなかった。
残りの試験も見事にボロボロで私は受験に惨敗、期待通り不合格となった。
こんな結果になったのは全部、オナラのせいだ。きっとオナラがなければ、私は受かっていたはずなのに…くそ、オナラが憎い、憎すぎる。
自分の勉強不足をオナラのせいにするしか、心を保つ方法がなかった。
結局、滑り止めの高校の方でどうにか合格し一安心するも、またも私は重大な事を忘れていた。
その後無事に?高校に進学して通い始めたが、私のウンコ生活の方は変わらず。便秘、指入れ、切れ痔、オナラ、ついでにいじめの方も順調だった。
そして、忘れていた重大な事とは…。
高校は授業に出なければ、卒業が出来ないっ………!
今までと違って気軽に休む訳には行かず、ただ高卒という学歴が欲しいがために(主に母が)、出席日数に怯えながら学校へ通っていた。
そんな中で案の定、高校の授業中でもオナラは空気を読まず、外へ出ようと暴れまくり、腹がドンドコ唸り声を上げてしまった私は…、今度はシンプルに「オナラ女」と言う名の称号を授かるのである。