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2.禁断の相棒

ある日の事、いつものように私はトイレに三十分以上こもっていた。


しかもその日は土曜日、午前授業で学校が終わるので姉と兄が帰って来てしまう。早く出なければトイレのタイミングがかち合ってしまうのも時間の問題だ。

だけども焦って肛門に力を入れても、出てくるのはスッカスカのガスだけ。よくトイレを長く待たされていた兄は、私に「ウンコマン」という不名誉ながらもピッタリなあだ名を付けたのである。

幸いな事にまだ、姉兄が帰って来た合図である玄関ドアの開く音は聞こえないが、腹の調子は最悪だ。限界に詰まり肛門の出口付近まで来ているのに動く気配がなく、ますます気が焦り始める。

このまま、またも夕飯が食べられずに残してしまう事になったら…私は体は恐怖に震えた。前に母の特製手作りオムライスを残してしまった時の「あっそ、じゃあ食べなきゃいいんじゃない」と捨て台詞を吐かれ、食べかけを台所の流しに投げ込まれた事件があった。…あの身の縮む思いは、もう経験したくない。


何でもいい、何をしてでも、こいつを出さなければ私は終わる。もうドアの出口まで来ているんだ、何か、何か方法は…………。

その時、私の脳裏に母から聞いた、赤ちゃん便秘解決エピソードがふいに思い浮かんだ。



それは、キャラメルを肛門に入れると言うもの。



キャラメルとは、砂糖・水飴・牛乳などが入っているお菓子である。口に入れて食べる物であって、決して肛門に入れる物ではない。

しかし母いわく、昔は民間療法で赤ちゃんが便秘の時にはキャラメルを手の熱でやわらかくし、細長く形を整えたら肛門に挿入してウンコを促していたと言う。はっきり言って、市販薬の浣腸を使った方が何百倍も良いだろう。だけど、その時の私には親に浣腸を頼むより自分で何とかする方が圧倒的に精神が楽であった。がしかし、あいにく家にはキャラメルのストックは無く、ウンコを出す退路は断たれたかと思われた。

ふと膝に置いてある右手が目に入り、人差し指一本、自分の目の前に差し出した。最近爪を切ったばかりなので短く綺麗にそろっている。

もうこれしかない。ゆっくりと深呼吸し、私は覚悟を決め…………、



肛門に人差し指を入れた。




しばらくして全てを終えた私はトイレから脱出し、洗面台の石けんで手を洗い始める。特に右手の人差し指をガシガシ執拗に、爪の中まできっちりと。

そして洗いながら、顔を上に向け大きく長い息を吐き、心に強く思った事は一つ。



スッキリしたぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜。



この汚い人差し指が無ければ、今すぐスキップして踊り出したいくらいに興奮していた。

指で肛門という名のドアをノックし、部屋へと入って行くと近くにいたウンコはすぐ部屋から外出。奥の部屋にこもっていたウンコも顔を出して来て、最終的に全員旅立つ事が出来たのだった。

手洗いの仕上げに、匂いチェックの確認をすれば、やっと一連の作業は完了だ。


よっしゃ、これからは人差し指君はウンコの相棒だ!


指にとっては迷惑極まりない任命を下し、ハイになった頭で私はリビングへと戻って行く。

しかし誰もが知っている事だが、肛門は出す所であり、入れる所ではない。してはいけない事をしてしまうと大きなしっぺ返しが受ける事を、私はまだ知らずにご機嫌で鼻歌を歌っていた。


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