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第十三話 監禁

「ここに入っていればいいのかしら?」

「は、はい」


 城についた私は、衛兵を引き連れて自ら牢獄に足を踏み入れる。

 あまりにも私がスマートに牢獄に入っていくので、衛兵と看守はやや戸惑っていた。


「それじゃあセリーヌをお願いね」

「わ、わかりました」


 私は衛兵にセリーヌを託す。

 そういう約束なので、衛兵は敬礼をしてセリーヌを連れて行こうとする。


「リーゼ! 早く出てきてね」

「もちろんよ。シュトラウスとあの部屋で待ってて」


 私はそう言って手を振ってセリーヌたちを見送り、牢獄の中で唯一と言っていい家具であるベッドに腰掛ける。

 ここには牢屋の中の私と、看守の男が一人だけ。

 私は静かになったのを良いことに考えをまとめることにした。


 現段階で影霊事件について分かっていることは、被害者が全員魔女であることと、殺害された場所は全て魔女たちの隠れ家か、そこに通ずる路地だということ。そして魔女の隠れ家の正確な位置を知っていたのは、ギルドマンと一部の管理者だけだ。


 さらにヴァラガンの魔女たちは皆、人間になりすまして生活しており、そのせいで”不思議”が薄くなり大した魔法が使えない状態だった。


「どっちにしろ人間には不可能な事件ね」


 私は看守に聞こえない声で口にする。


 殺し方のバリエーション。鈍器で殴ったような場合もあれば、鋭利な刃物で刺されている場合もあり、さらには獣のような歯形の死体まで……。おまけに時間帯(どれも深夜三時頃)を考えても人間の仕業ではない。


 となると不思議を扱える者、同族の魔女の可能性が浮上するが、それも考えにくい。

 ただでさえ数が減っている同族を殺める理由がない。

 しかし一つ例外があるとすれば、ヴァラガンに住む同族を裏切り者と考えた場合だ。

 そうなれば可能性はある。

 となると外部の犯行。

 しかも上層部から情報を抜き取ったか、不思議の残滓を辿って魔女の隠れ家を特定できる程の強者。


「厄介ね」

「何が厄介なのですか?」


 私の独り言に返事が返ってきた。


「遅かったじゃない、ギルドマン。もっと早く出してくれるかと思ったのだけれど?」

「これでもかなり急いだんですよ? そんなことより街中で魔法なんてやめてください。後始末が大変なんですから」

「ちょっとカッとなっちゃっただけよ」


 私は悪びれる様子も見せずギルドマンに目で解放を催促する。

 いろいろ考えているうちに日が暮れているはずの時間だ。

 なにぶん窓がないので正確な時間は分からないが……。


「わかりましたよ。解放します。それで、さっきの厄介という独り言が気になるのですが?」

「それはここを出てから貴方の部屋で話しましょうギルドマン」


 私はそう言って立ち上がる。

 ギルドマンの指示通りに牢屋の鍵を開けた看守を横目に、私はギルドマンの隣に並んで階段を登っていく。

 それなりに長い階段を登り、地下から一階に戻ってくると、城の中は所々に明かりが灯され壁や床を妖しく照らす。


「まだ電気は使っていないのね? もう国にはその技術はあるのでしょう?」

「まだ一般化まではしてないのです。もちろんヴァラガンの城ですから、要求すれば手に入るのでしょうが、私はこっちのほうが落ち着くので」


 ギルドマンは微笑みながら答えると自室のドアを開ける。

 私は彼のエスコートのまま部屋に入っていき、椅子に腰を掛けた。


「それで厄介とは? 何か分かったってことですか?」

「まあね。とりあえず確定で言えることは、殺された魔女というよりこの街に隠れ住んでいる魔女は、みんな人間になりすまして生活している。知ってた?」

「ええ、知ってました」

「じゃあなぜそれを話さなかったの?」

「それがそんなに重要な事柄とは思わなかったもので、私たちの中では当然というか、あまりにも当たり前のことでしたので失念してました」


 ギルドマンの答えに嘘はなさそうだった。

 彼は正直な人間だ。

 変なところで嘘をついて私の不興を買うのは得策ではない。


「そう……一応教えておくけど、魔女は人間になりすまして生活していると、扱える不思議の量が減るのよ。つまりなにが言いたいかというと、犯行に及ぶ難易度がグッと下がるってこと。まあそれでも、人間には不可能だと思うけれど」


 私は言い切った。

 これは絶対だと思う。


「それで次の被害者リストは?」


 私の問いかけにギルドマンは固まる。


「どういう意味です?」

「どうって言葉通りの意味よ? 私が不思議の残滓を見逃すとでも?」


 私は相変わらず椅子に座ったまま指をさす。

 私の魔眼は不思議を空間に充満させるが、それと同時に不思議を目に映す。

 いま目の前に座っているのはギルドマンではない。


「本物のギルドマンはどこにやったの?」


 私の次の問いかけに、ギルドマンモドキは固まってしまった。

 そして観念したようにクスクスと笑い出した。


「やっぱり貴女は最強の魔女ね、リーゼ・ヴァイオレット。紫の魔眼というのは、伊達じゃない」


 ギルドマンの姿形のまま女の声に変わっていく。

 やや気持ち悪い状態だが、目の前のギルドマンモドキは気にせず言葉を続ける。


「ギルドマンなら今頃別室のベッドの上よ。魔法で眠らせてあるの、起きた頃には何も憶えていないでしょうけれど」


 強制睡眠に、記憶操作。

 見た目と声を変えて、不思議の残滓を極限まで薄めることができる能力。


「貴女は何者? ここらでそこまで器用に色々こなせるタイプの魔女なんて私は知らない」


 もちろんヴァラガン周辺の魔女を全て把握しているわけではないが、それでも結構な使い手であれば自然と耳に届くもの。

 だからこそ彼女の存在が不気味だ。

 身内のはずの同胞を次々と毒牙にかけている点からしても異常だ。


「私? 私はメイスト。貴女が知らないのは無理もないことよリーゼ。私はこの近辺の魔女ではないもの。それに国に存在を秘匿されている存在だしね」


 国に秘匿されている存在?

 言っている意味が分からない。

 人間を絶対とした国である、真人帝国エンプライヤが魔女を匿っているというの?


「国に秘匿されている魔女? 詳しく話を聞きたいところね」

「特に話すようなことはないし、貴女だって同じようなものでしょう? リーゼ・ヴァイオレット。貴女もある意味ヴァラガンに秘匿されているようなものじゃない?」


 私と同じだとのたまうメイストは、これ以上私の質問に答えてくれそうにない。


「そう……いろいろと喋って貰いたかったのだけれど……」


 私は静かに魔眼の力を解放した。

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