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第30話 クナイ



 昼は自由時間だ。

 カシャを案内するつもりで森に移動する。

 遊ぶといえばここしかない。


「普段はなにをしているんですか?」

「ん〜跳んだり跳ねたりかな」


 後は走ったり?

 自分を鍛えるぐらいしかやることがないし、いまはマナナが引っ付いていることが多いから、それ前提の動きの研究とかしてみたり?


「武器は使わないんですか?」

「武器はまだ許可されてないんだよな」

「そうなんですか」


 そう言いながら、カシャは袖をゴソゴソと探るとなにかを取り出してきた。

 ナイフにしてはちょっと分厚いな。

 握る部分があって、その先にある刃? 長い菱形のような形をしている。


「それは?」

「クナイという武器です。投げて良し、振ってよし、登る道具として使ってよしというものです」

「はぁ、なるほどな」


 クナイを見せてもらう。

 刃物としてはさほど切れ味は良くなさそうだ。

 研げば少しはマシになるだろう。

 武器として使うなら、先端で刺すことを重点にした方がいいのか?

 刺すのがいいなら、確かに登るのを助ける道具として使うにも役立ちそうだ。


「こうやって投げます」


 と、クナイを投げてみせる。

 目標にされた木の幹にいい音がして突き刺さる。


「おお」

「やってみますか?」

「やる!」


 というわけでクナイを借りて投げてみることにした。



●●カシャ●●



 ふふふ、なんだかんだ言っても男の子は武器に弱いのよ。

 カシャは内心で笑う。

 孤児として生まれ、千本社宮に拾われて巫女として育てられ、そしていきなり見たことも聞いたこともない大陸の真反対の国に連れて行かれ、ゼルディアに仕えることとなった。

 十歳にもなっていないのに、人生が怒涛すぎる。

 他の子よりも、ちょっと聡いなとは自分でも思っているけど、それにしたって扱いがひど過ぎやしないだろうか?

 そう思っていたら、とんでもない美少年と出会えた。

 自分と同い年ぐらいなのにゼルディアと対等に話していることがおかしいと思ったけれど、どうやらこの国の王子であるらしい。

 こんなところで暮らしていることは気になるけれど、でもそんなことより大事なことがある。

 立場なんかどうでもいい。

 顔が良い。

 これに勝るものはない。

 線の細い金髪の美少年。

 東方にいる人間では金髪なんてほとんど見ない。

 その上、夢から出てきたような繊細な造作。

 それなのに普通の少年のような無邪気さもある。

 たまらない。

 マナナとかいう竜人が邪魔だけれど、まぁ、それもよし。良い蜜の出る木には虫がいるのは当たり前。

 マナナはそんな存在だ。


「ようし、それじゃあ」


 クナイの投げ方を教えてあげて、何気ない密着を楽しむと、アルはその通りに……あれ、私より投げ方が綺麗な気が……。


 ズガンッ!


「へ?」

「おっと……力み過ぎた」


 クナイは的にしていた木の幹を突き抜け、その向こうにあった幹を、そのさらに向こうの幹を……という感じでどこまでも突き進んでいった。


「やばいやばい、取りに行こう」

「あっ、待って」


 よくわからないまま追いかけていく。

 え?

 なにこれ〜?



●●●●



 この、クナイっていいな。

 持ちやすいし投げやすい。

 いまの俺の体格にとてもいい。

 投げたクナイは森のかなり奥まで突き進み、途中で鹿まで貫通し、最後は大岩に突き刺さっていた。

 途中の鹿は回収して持ち帰る。

 家に戻ったらマックスにクナイを作ってくれと頼んだ。


「うあ、またこいつに危険な物を」

「なにをー危険物の取り扱いなら任せとけ」

「そういうことじゃなくてだな。ソフィー、どうなんだ?」

「むっ、親を出してくるのはずるいぞ」

「俺は祖父だが?」

「お祖父ちゃん、お願い!」

「うおおお……やめろ、鳥肌が」

「ひどい!」


 まぁ、冗談だが。


「ん〜」


 判断はソフィーに託されたわけだが、彼女はクナイを握って自分で使い心地を確かめて、「まぁ、これならいいのかしら?」と呟いた。


 やったぜ。


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