ソフィーの許可を得られたので、堂々と孵化のための準備をする。
部屋のベッドに上に置いておこうと思っていたのだけれど、騎士が箱を作ってくれて、その中に藁を詰めて置いておくことにした。
このままだと上が冷えるので、そちらには布をかける。
後は、野営なんかの時に使う気温調整の魔法も使う。
これは結界の魔法を応用したもので、便利な割に難易度の高いのであまり普及していないはずだ。
俺が修行に明け暮れていた二十年の間に変化が起きていなければ、の話だが。
さて、どんなことになるかな?
●●????●●
なにか、奇妙だ。
ずっと、温かい。
自分というものを感じるようになってからずっと、ただ、なにかの動きを感じて、それを吸い取るだけの日々だった。
それを疑問に思うことはない。
そもそも疑問という考えをすることもできなかった。
できることといえば、快いと不快を感じることぐらい。
それさえも、自身でなんとかできるわけではないので、そこまで強くもない。
そんな淡い意識のままで、時間の感覚すらもないままにすぎていくだけの存在だった。
それが変化を始めた。
快いと強く感じ、その強さ故か、それしかないことに疑問を覚えるようになった。
なにかが起きている。
なにが起きている?
外への疑問が????を突き動かした。
さらになにかが変化し、外を見ることができるようになった。
ボヤりとしたなにかだけれど、見ることができる。
そこには小さなものと大きなものがいた。
よくいるのは小さなものだ。
大きなものはいくつかあるようだったけれど、よくわからなかった。
なにより、この小さなものから感じるものが快さと関係していることがよくわかった。
この小さなものは自分を大事にしてくれる存在だ。
我と彼の存在を認識した???は、より強い気持ちを育て始めた。
会いたい。
あの小さなものに会いたい。
その気持ちがさらなる変化を起こした。
●●●●
「おっ」
朝。
パキリという異音に目を覚ますと、魔晶卵に変化が起きていた。
表面にひびが生まれている。
「おおっ!」
ひびの隙間からなにかがもぞもぞと動いている。
孵化に成功したか?
この奇跡の瞬間を見逃すわけにもいかず、とはいえソフィーたちに知らせないわけにもいかず、俺は大声を上げて彼女らを呼んだ。
すぐに三人もやってきて、魔晶卵から出てこようとする存在を、息を飲んで見守った。
パキリ。
パキリ。
さらにひびが広がっていき、やがて小さな手が卵の殻を内側から押し破って、外に出てきた。
「うっ?」
そんな声を漏らして、中から出てきた生き物が俺を見た。
「あらまぁ」
「これは……」
「人間……いや」
這いずって卵から出てきたそれは、俺に向かってきた。
「ううっ!」
俺にぶつかって、なにやらご機嫌に笑う。
その姿は、俺よりちょっと小さい女の子?
紫の髪と紫の目。
あどけない子供の顔。
だが、背中に翼があり、尻には尻尾があった。
「竜人?」