さて、人里で暴れた竜を倒してめでたしめでたしではない。
いままでなかったことが起きたということは、その原因がどこかにあるということだ。
竜が争ったのを縄張り争いだと思っているが、だとすれば、いままで争いがなかったのはどうしてなのか?
あの竜よりも強い存在がいたからじゃないのか?
だとすると、いま縄張り争いが起きたのは、その強い存在が弱ったか、いなくなったか……。
竜どもの争いはこれで終わるのか?
「というわけで、ちょっとこの辺りを見てくる」
「ダメです」
ソフィーに言うと、ニッコリ拒否された。
「なんでだ?」
「あなたが子供だからです」
「いや……」
「ダメです」
中身は大人だぞと言おうとしたが、ソフィーの態度は崩れない。
「そのことに関しては、この土地の人々も懸念していて、ちゃんと調査しています」
「むう……」
ソフィーが折れない。仕方がないので調査は諦めた。
あの日以来、別の魔獣や竜が騒動を起こすということもなかったので、無駄足になるかなと思ったのもある。
もしかしたら、片方がよそから流れてきて争いになったのかもしれないしな。
なんて考えていた、ある日。
それを感じた。
「うん?」
強大な魔力が空を駆け抜けていった。
「なにか、消えたな」
だけど、それだけじゃない。
大半の魔力が世界に拡散する一方で、ほんの一部が一点に収束したように感じたれた。
「気になるな」
今日のソフィーは来客の相手をしている。
あの一件で知り合った貴族の中にはソフィーに惚れ込み、足繁く通ってくる者がいる。
実は第三王妃のマリアもその一人だ。
彼女は生まれてきた娘をソフィアと名付けたぐらい、ソフィーに傾倒している。
さすがにここにやってくることはないが、手紙と一緒にいろいろと送ってくる。
ソフィーは女性に人気を得やすいのかもしれない。
ともあれ、今日の彼女は忙しい。
森に遊びにいった俺の帰りが多少遅くなったところで、気付かないだろう。
「行ってみるか」
そういうわけで、魔力が集まった場所に向かってみることにした。
気配の方に向かって飛翔の魔法を使って空を行く。
「さて、なにがあるかな?」
こうやって、個人の興味の赴くままに動くということは、実はあまりしたことがない。
ちょっと、楽しみになってきた。
●●とある魔法使い●●
「ふはははははは!」
エルホルザからさらに北にある高い山。その頂で、その魔法使いは笑っていた。
人の近寄れない峻厳な山の頂はテーブル状に磨かれており、濃い生き物の臭気が残っている。
だが、生き物の姿はなく、ただ中央に濃い暗紫色の光を宿す大きな卵状の物体がある。
「この私が生きている間にこの僥倖に出会えるとは!」
魔法使いは卵状のそれを前に、喜びのあまり笑いを止められなくなっていた。
「手に入れることができたぞ! 魔晶卵!」
魔晶卵とは、卵生の魔獣の腹で変質した卵のことを指す。
強力な魔力を内包したそれは、魔力を扱う者にとっては、強力な外部魔力保存庫として使用することができる。
また魔晶卵は、時間を置けば失われた魔力を周囲から補充することもできる。
魔法使いで例えれば、個人で使用できる魔法の回数を増やし、あるいは一人では再現不可能な魔法を使うことができるなど、個人での魔力の限界に悩むことの多い魔法使いにとっては、垂涎の品だ。
「くくくく、しかも竜の魔晶卵だ! ここに内包された魔力はいかほどかぁ、へぶっ!」
ふらふらと魔晶卵に近づこうとしていた魔法使いは、突然に襲われた衝撃によって吹き飛ばされた。
「な、なんだぁ⁉︎」
勢い余って山から滑り落ちそうになっていた魔法使いは、なんとかギリギリで踏ん張って衝撃の正体を見た。
そこには、空中に浮いた子供がいた。