風呂で、大分体も心もすっきりした。何だか自分の醜いところまで洗えた気がする。
「お、すっきりしたな! 今日は俺、仕事休んだぞ? お前の為に」
「僕の為に……?」
晃生は、さも当たり前の様に
「そりゃ、客人が居なくなったら探すのは当たり前だろ?」
と言ってのけた。確かに、それはそうかもしれないけど……。将軍関係の人が、そんなに仕事を休んで大丈夫なのだろうか。僕が気にするのはお門違いかもしれないけど。
「でもまあ、何はともあれ帰ってきてくれて良かったよ。ちょうど、佐竹の分家からの手紙も届いたしな」
「手紙?」
「ああ。お前のことは、分家の人間も知らないみたいだな。本当に、何者なんだ? お前……」
分家の人間であろうと、本家の人間であろうと知っているはずがないのだ。僕は未来から来たのだから。ただこのことを話しても、『はいそうですか』とはならないだろう。
「い、いやぁ何者なのかは……実は僕もよくわかっていないというか……」
「妖怪とかではなさそうだけど……。本当、不思議な奴。あれか? 記憶喪失?ってやつか?」
「あ、あぁうんそんな感じ! だと思う!」
適当に頷く。
「そうか……どうやったら記憶が戻るんだろうな」
晃生の表情は極めて真剣だ。僕は本当は記憶喪失でも何でもないのに、何だか申し訳ない気分だ。
「まあ、細かいこた考えても仕方ねーな。いずれ思い出せるだろ」
晃生が僕の頭を優しく撫でる。今までとは違う、一児の父としての風格が備わりつつあるようだ。
「そういえば秋奈さんは?」
「出産でだいぶ体力を使ったみたいでな。今は寝込んでる」
「そっか」
そりゃ、新しい命を産み落とすという行為が途方もなく体力を消費することはわかっている。それに彼女は病弱だ。それなら尚更、寝込んでいても仕方がないだろう。
「そっか。お大事に。僕は行くところがあるから、また後でね!」
「今度は家出すんなよ」
「しないよ」
僕は履物を履いて、外へ駆けだしていった。我ながら、時代に馴染んできたように感じる。