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第1話

 僕が帰ると、晃生に抱きしめられた。

「おいおいおい! 何処行ってたんだよ!」

「……心配かけてごめん」

 それしか、言う言葉が見つからなかった。ここまで心配してくれるとは、彼はどこまで優しいのだろう。

「……何で出て行ったんだよ、何も言わずに」

「ちょっと思うところがあって……」

「思うところ?」

 こんな感情、言えない。言えるはずがない。生まれたばかりの命に嫉妬していたなんて、見苦しいにも程がある。

「ううん、何でもない。心配かけてごめんね、もう出て行かないから」

 僕が晃生を抱き返すと、相手も抱き返してきた。大柄な晃生に抱きしめられていると、大分息苦しい。

「他の奴にも報告しないとな。紬、行ってきてくれるか?」

「かしこまりました」

 紬は一礼して、奥の部屋に去っていった。


「に、しても昨晩は何処で寝てたんだ? また野宿か?」

「ああ、まあ、そんなところ……」

 神社で寝泊まりしたことは、言わない方がいい気がしたので伏せておく。第一あの神社は、佐竹家と関係ないらしいし。意味ありげな言い方ではあったけど……。

「なら、朝風呂でも浸かるか? 紬は忙しいだろうから……風花にでも頼むか」

 晃生も奥の部屋に向かって歩いていった。一人きりになった僕は、とりあえず自分の部屋に戻る。昨日、布団から抜け出したままになっている。当たり前か。ということは、誰もこの部屋を捜索していないのか。それならそれで有難いけど……。

 部屋の様子を見ていると、「風呂が沸いたぞー」と晃生の声が聞こえた。

「今行くよ」

 と返事をし、風呂場へ向かう。


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