夜、全員が寝静まっているのを確認してから家を出た。行先は、今羽のいる神社。この時間だと、あの二人も寝ているだろうし迷惑だとは思うけど……。僕はもう、この家には不必要な存在だという気がしてならない。暗闇の中、星と月だけが輝いていた。その明りを頼りに、神社を目指す。
夜の神社は、冷たく感じた。確かに気温的にも寒いのだが、そういうことではない。気配というものが、研ぎ澄まされている様に感じる。神社に一礼して社務所へ向かうと、やはり明かりは消えていた。起こすのは悪いかな……と思いながらも「すみませーん」と声をあげてみる。すると、ギシ、という誰かが床を歩く音が聞こえてきた。
「こんな夜更けにどなたです?」
「僕だよ、僕。光希です」
「……え? 光希くん? とりあえず中に入って、外は寒いから」
言われるがままに中に入ると、外よりはマシだけれども十分に寒い。
「どうしてこんな夜更けにこの神社に? 危ないでしょ。というか、佐竹の家は?」
欠伸をしながら問う今羽。僕は、赤裸々な気持ちを吐露した。
「今日、あの家に赤ちゃんが産まれたんだ」
「へえ、佐竹家もついに跡取りが……。それで?」
「で、皆忙しそうでさ。僕がここに居ても、邪魔になるだけなんじゃないかと思って」
今羽は口に手をあて、しばらく黙り込んだ。そして、こう言った。
「邪魔だ、なんてあのお人好しの佐竹晃生が思うはずないよ。勿論、奥方もね。今夜はここで寝ても良いけど、朝になったら絶対佐竹家に帰ってよ。俺は佐竹家と揉め事なんて起こしたくないからさ」
「そういえば、今羽さんって何者なんですか? 佐竹家と繋がりがあったりするんですか?」
「まあ、その話は追々。もう夜も遅い。でも、繋がりはないよ。本当だ。佐竹家は江戸でも有名ってだけ。はい、この話はおしまい。おやすみなさい」
恐らく客用の布団を敷き終え、今羽は自分の寝床に戻っていった。仕方がないので、僕も寝ることにした。