朝食をたいらげても、まだこの家の中はバタバタしていた。当たり前だ。新しい命が産まれたのだから。僕には何も出来ることがないので、部屋に戻る。晃生と秋奈は、二人だけの状態で何を語らっているのだろう。僕にもいつか、子どもが出来る日が来るのかな……。そんなことを考えながら、気がつけばまた眠っていた。普段より睡眠時間がとれていないのかな……。
「やあ、少し間が空いたかな? 光希くん」
「今羽さん……」
また夢の世界か。夢であれば、科学的な解析も不可能ではないのだが——侵入する方法はわからない。それは恐らく、道理で説明がつくものではない。
「佐竹の跡継ぎが無事に産まれて何よりだよ」
「え、何で知ってるの」
「これも神通力、ってやつかな」
もう、何でもアリではないか。神の力とは、時に理不尽だ。科学なんて、人間のお遊びだとでも言うように平気で常識を塗り替えてしまう。
「まあ、今日は神社に来ないから様子を見に来たんだよ。そうしたら、おめでたいことに跡継ぎが産まれていたってところってこと」
確かに、毎日神社にお参りする様に言われていた。しかし今日は仕方ないと、今羽なりに判断したのだろう。責められる雰囲気は感じとれない。
「様子を見に来ただけだから、今日はこの辺で。落ち着いたら顔出してね。明日でも、明後日でも構わないから」
僕の意識は、一気に覚醒へと向かう。
体を起こすと、疲労感に襲われた。朝から気が休まらないのだから、そりゃそうか。こんなにこの家に人が押し掛けるとは思わなかった。やっぱり、権力を持った武士の家なのだと実感する。
「光希様、晃生様がお呼びです!」
紬の声がした。
「わかった、今行く!」
慌てて襖を開け、紬についていく。
晃生は、目の周りが赤かった。大泣きしたのは見ればわかる。そのことには触れず、「どうしたの?」と問いかける。
「いや……なんかさ。俺も父親になった訳なんだが……実感がまるでなくてな」
「そっか」
僕には縁遠い話だ。晃生は何を言いたいのだろう。
「光希、お前は……ああ、駄目だな。言葉が出てこねえや」
再び泣き崩れる晃生を介抱しながら、思う。新しい生命って、人の心にとんでもない作用をもたらすのだと。