朝、佐竹家はドタバタとしていた。秋奈が産気づいたからだ。
「十和、産婆を呼んできてくれ」
「わかりました、ご主人様」
十和は、身支度もロクにしないまま外へ駆けて行った。僕はと言えば、何をしていいかわからずその場に立ち尽くしている。
「お、光希。悪い、十和の代わりにちょっと秋奈に寄り添っておいてくれ。暇だろ?」
晃生は人のことを信頼しすぎではないだろうか。まだ得体のしれない僕を、妻の傍に置くなんて。僕なら絶対にしない。
「わかった」
しかし、断るのもいかがなものかと思ったので引き受けることにした。秋奈の部屋は確か奥の方だったはずだ。急いで奥の方に歩き始める。
秋奈は、僕を見るなり目を見開いた。
「晃生様……お仕事は……?」
「落ち着いて、僕は光希だよ」
痛みが酷いからか、晃生と僕を間違えている。ただでさえ顔の造りが似ていると言われるのだから、間違えても無理はないのかもしれないけれど……。複雑な気持ちだ。
「今、十和さんが産婆さんを呼びに行ってるから大丈夫だって、晃生が」
「そうでしたか……っ、痛い痛い痛い痛い痛い! 死んじゃうっ……!」
秋奈の目尻には涙が溜まっている。相当痛みに耐えているのだろう。晃生の代わりに、僕は彼女の手を握る。
「不思議です……光希様は晃生様に、やっぱり似ていらっしゃる……」
「そうかな」
「はい、とても……安心します……」
髪を解いた彼女は、これはこれで美人だなとかこの場にそぐわないことを考えながら手を握り続ける。すると、十和の声がした。
「秋奈様! もう大丈夫です、産婆を連れてきましたので」
秋奈は僕から手を離した。
「ありがとう、十和。光希様、もう大丈夫です。朝食、食べてください」
十和が襖を開けたのと同時に、僕は部屋を出た。