視界が暗転したと思ったら、部屋の天井が見えた。無事に目を覚ませたらしい。さっきのは夢……? いや、夢ではあるはずだ。この時代は非科学的なものが多くて嫌になってしまう。今羽には悪いけれど、やっぱり馴染めそうにない。
「あの、光希様……夕食が出来ましたよ」
襖の向こうから声が聞こえた。この声は紬だ。もうそんなに時間が経っていたのか、と驚きながらも起き上がる。
夕食の場には、いつものメンバーが揃っていた。そしてふと、疑問に思う。
「秋奈さんは一緒に食べないの?」
「ああ、あいつは身体が弱くてな。あんまり動き回れないんだ。この家、無駄に広いだろ?」
確かに、僕と対面した時も顔が青白かった。男の僕にはよくわからないけど、つわりが酷かったりするのだろうか。
「大変そうだね……」
「大変だろうよ、これじゃ産まれる時どうなることか……佐竹家の存続の為とはいえ、随分無理させてると思う。申し訳なくなるな」
晃生は、いささか優しすぎるのではないだろうか。この時代の侍のデフォルトは絶対にこうではないはずだ。もっと、斬り捨て御免みたいな感じだと思う。時代劇の影響を受けすぎなのかもしれないけど。
「どうかしたのか?」
「いや、何でもない」
今まで考えていたことを打ち消す様に、ご飯を頬張る。だいぶこの生活にも慣れてきた、気がする。
「光希がいる間に、もしかしたら産気づくかもしれないな。秋奈。もしお前がいる間に子どもが産まれたら、その時は相手してやってくれ。お前がこの家の中では一番若そうだから」
「……」
正直、子どもは苦手だ。奇声をあげたり些細なことで泣いたり、それが仕事だと世間ではよく言われるけれど僕には理解できない。僕だって、世間的にはまだまだ子どもなんだけど。
「どうした?」
「ううん、何も。使用人の皆には相手させないのか気になっただけ」
晃生は、ああ、と間を置いて答えた。
「そりゃ、十和がやってくれるのが一番いいけどな。でも、あいつ無口だから打ち解けられるかどうかわかんねーんだよ。そこで、お前だ。最近客人というより家族になって来た様な気がしてきてさ。いや、姓が同じだから血の繋がりはあるんだろうけどよ。まあとにかく、暇つぶしにもちょうどいいだろ?」
少し強引な気もするが、僕に配慮したのだろうか。それにしても、家族か。現代に居る皆は元気かな。少しホームシックになったが、表情にはそれを見せず夕飯をたいらげた。