今日の夕飯は、またお浸しと焼き魚だった。鍋のレア度が高いのは、食材が高いからなのだろうか。江戸時代の相場を知らないから、何とも言えないけれど。いつものように夕食を終えると、低い位置で髪を結んだ少女がこちらへ歩み寄ってきた。
「先ほどから、秋奈様が挨拶をしなさいと仰るので……。遅ればせながら私、十和と申します。秋奈様の身の回りをお世話しております。以後、お見知りおきを」
十和はそう言うと、奥の部屋に戻っていった。本当にただ挨拶しに来ただけみたいだ。
いつも通り、お風呂に入り自分の部屋に戻る。空気が冷えていて、寒い。さっさと布団に入り、明日こそは神社に行こうと心に決める。まだ十四年しか生きていないが、あの今羽という神官はただ者ではないと直感が告げている。彼の正体も確認しておきたい。
そんなことを考えている間に布団が温まり、僕は眠りについた。
翌朝。今日は皆が食事をとっている時間に起きることが出来た。僕が座ると、あたたかい味噌汁を優斗が注いでくれた。寒いからか、身体中に温かさが染み渡る。
「光希様、今日は何をなさいますか?」
紬が問うてきた。そのままのことを言うと、面倒なことになりそうだ。
「うん、ちょっと外の空気でも吸いに行こうかと」
「私も同行致しましょうか?」
「いや、いいよ。一人で考え事したいから」
「左様でございますか。では、私は家事をしておきますね」
これで、難関だった紬の回避には成功しただろう。他の皆も仕事だろうし、僕は一人で神社に行けそうだ。
「ごちそうさまでした」
食器を優斗に預け、着物を着替える。最近は少しずつだが、自分で着物を着れるようになってきた。少し不格好だが、及第点だろう。
「光希様、自分でお着物を着られたのですね。では、いってらっしゃいませ」
紬に見送って貰いながら、家を出た。