神社から出ると、息を切らした紬が「こちらでしたか」と近寄ってきた。
「光希様が居なくなったりしたら、私が怒られてしまいます……」
僕を見つけた安心感からか、紬は涙ぐんでいた。
「もう勝手に行動しないでくださいね」
「わかった……ごめん」
流石に泣かれてしまうと、僕も強気には出られない。しばらく神社に行くときは、紬の監視下から解放されたときだけにしよう。そうしないと、紬が可哀想だ。
「ところで、あの神社に何の用事だったのですか?」
「大したことじゃないんだ、本当だよ」
「そうですか……」
深追いはしないみたいだ。正直に言って、助かった。迷い人だとバレても佐竹家は変わらず対応してくれそうだが、僕の気持ちが嫌だと言っている。今現在、使用人までつけて貰っているのだから特別扱いではあるんだろうが。僕はもっと佐竹家に馴染みたい。それこそが、この時代で生き抜くのに必要なことだという結論に至ったからだ。それに恐らく、晃生もそれを望んでいるはずだ。
「光希様、家に帰って折り紙でもしませんか。どうにも私、光希様の好きなものがわからなくて……ありきたりですみません」
折り紙か。僕は幼稚園以降ロクにやっていないけど、問題はないのだろうか。しかし、紬が考えてくれたことを無下にする訳にもいかない。
「いいよ、やろう」
「本当ですか! では、折り紙を買って帰りましょう」
紬の表情が明るくなった。多分、本当は紬がしたかっただけだなと思いながらついていく。
折り紙を買い、佐竹邸へ戻る。
「光希様、何を折りますか? 鶴?」
「あ、いや……実は……」
僕は、折り紙を折ったことがほぼないということを伝えた。
「そんな方がいらっしゃるなんて……。でも、江戸の外ならそれが普通かもしれませんね。折角だし、鶴の折り方をお教え致しましょう。まずはここを——」
随分と切り替えが早い。もう、折り紙をやりたくて仕方なかったのだろうと紙を折りながら考える。単純な作業だが、案外楽しい。紬がハマるのも、少しはわかる気がする。
「出来ました! ほら、簡単でしょう?」
「そうだね」
綺麗に仕上がった紬の鶴に比べて、僕のは随分と不格好だ。初めてだからこんなもんか、という気持ちと次はもっと綺麗に折りたいという気持ちが混在している。
「では、次は違うものを折ってみましょうか。蛙とかどうでしょう」
「難しそう……。出来るかな」
「私が教えます。大丈夫ですよ」
結局この後、蛙の他にも花などを折った。紬はどんなに不格好な作品でも褒めてくれるので、調子に乗ってしまう。