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第3話

 今羽は今日も掃除に勤しんでいた。

「こんにちは」

 そう挨拶すると向こうも気がついた様で、「昨日ぶりだね、佐竹くん。元気にしてた?」と返してくれた。

「はい、元気です。どうですか、僕は戻れそうですか」

 今羽は溜め息をついた。

「あのねぇ……昨日の今日で安定するなら苦労しないよ。ま、これも何かの縁だ。参拝していく?」

 僕が急いているのだろうか。とりあえず、参拝して心を落ち着けよう。だけど、参拝ってどうやるんだっけ……。お賽銭入れて鐘を鳴らすところしか覚えていない。

「佐竹君、もしかして参拝の仕方がわからない? 迷い人だもんね」

 今羽は随分と察しが良いらしい。頷くと、参拝の仕方を一から教えて貰えることになった。それに倣って、実践してみると今羽が「お疲れ様」と頭を撫でてくれた。と言っても、江戸時代の人間だからか僕と背丈はあまり変わらない。多分僕は、江戸時代の中なら結構身長が高い。晃生には劣るけど。やっぱり食生活が影響しているのだろうか。少し思案していると、「佐竹くん、どうしたの?」と顔を覗き込まれた。思わず後ずさると、石につまずいて池の中に落ちてしまった。幸いなことに魚はいなかったが、不快感が身体中を支配する。今羽も驚いたような顔をした後、僕の腕を掴んで立たせた。

「ごめんね、俺のせいで。着替えを持ってくるから、体拭いてて。社務所入ってていいから」

 布を渡された。恐らくはこれで拭け、ということだろう。言葉に甘えて屋内に入り顔から体まで余すことなく拭く。この神社は大きい割には、参拝者が少ない。昨日も今日も僕だけしか参拝者を見ていない。現代ならそんなもんか、となるがここは江戸時代だ。少し通りから外れたところにあるからといって、こんなにも参拝者数は減るものなのか。何とも不思議だ。

「今羽がごめんね、私は桜。この神社の巫女。今羽から大体の事情は聞いてるわ。佐竹って、いいお家に拾われたわね。実は向こうでもお坊ちゃんだったとか?」

 桜は、長い黒髪をひとまとめにしていた。今羽同様、赤みがかった瞳をしている。正直、威圧感がないと言えば嘘になるが口調は優しい。

「いえ……一般家庭です、僕の家は」

 現代に思いを馳せる。捜索願とか、出されているんだろうなあ……。帰れたら、どう言い訳しようか。

「そう。それにしても、今羽の神力が安定してないのって珍しいのよ。待たせてしまって申し訳ないわね」

「いえ……何カ月かかっても現代に戻れるのなら僕は待ちますから」

「いい子ね、今羽にも見習ってほしいくらい」

「うるせえな、俺だって佐竹くんくらいの歳……いや、何歳か知らないけど……の時にはもっと素直だったっつーの」

 音もなく背後で話し始めるものだから、びっくりしてしまった。

「はあ⁉ あんた昔悪ガキでどんだけ私が尻拭いしたと思ってるの⁉」

 急にキレだした桜。今羽も負けじと

「お前の方が神力安定するのに時間かかっただろうが! ま、今の俺が言える立場じゃないけど……」

 と反論した。それにしても、神力ってどうやって安定させるのだろう。非科学的なことを考えても仕方ないが、気になってきた。しかし、訊いても理解できなさそうだ。一度頭をリセットするために深呼吸をする。

 それにしてもこの二人、仲がかなり険悪そうだ。会話の内容から察するに兄妹か幼馴染なのだろうが、それにしても二人の目から火花が散っている様に見える。

「あの、僕また来ます! 今日は用事を思いだしたので」

これ以上喧嘩されても困るので、一度離れることにした。

「あら、そう……」

「いつでも待ってるよ。またおいで」


 僕は神社を後にした。


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