目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第2話

 居間に戻ると、既に食事の準備がなされていた。

「皆揃いましたかね」

「うん、優斗くん。呼んできたよ」

 紬が欠伸を押し殺しながら言う。

「じゃあ、いただきます」

 晃生の一声で、皆一斉に食べ始めた。基本的には魚とお浸しが大半の食事を占めるが、十分に美味しいので文句はない。というか、作って貰っているのだから文句は言えない。

「うん、美味しい!」

「それは何よりっす。俺、これしか特技ないんで」

 この時代で料理番が出来るなんて、相当の実力者だと思うのだが……。謙遜だろうか。しかも優斗は恐らく、僕と数歳しか違わない。それでこれだけ働けているのは、やはり時代のおかげなのだろうか。

 そんなことを考えていると、あっという間に皿は空っぽになった。いつもの様に皿を優斗に預け、部屋に戻る。

「今日は何をなさるのですか?」

 紬が訊いてきたが、予定は今日もない。今羽のところに行くのもアリだが、その為には紬を撒かなければいけない。紬が邪魔者みたいな考えをしてしまったが、事実な部分もあるので仕方ない。

「外に出ようかな」

「今日はお供出来ますよ! どちらまで行かれるのですか?」

「いや、行きたいところなんて特にないけど……」

 紬は「そうですか……」と黙り込んだ後、「では、お芝居でも見に行きますか?」と提案してきた。

「ごめん、興味ない……」

 元から演劇や芝居に興味を持てない。どうせ作り物の世界だから。

「では、落語とか?」

「ごめん、それも……」

「光希様、こう言っては何ですが娯楽に興味がないとか……?」

 言えている。僕の娯楽は、恐らく江戸時代には存在しない。スマホ一台で済むものが大半なのだから。

「この間、市中探索した時は具合が悪そうで心配だったのです。でも、今日は行けそうですね。顔色が良いですから。という訳で、一緒に市中探索をしましょう。この江戸、狭かれど娯楽は沢山あります。きっと光希様が気に入るものもあるかと」

 紬って、案外強引かもしれない。僕の着物を着せかえると、「行きましょう」と玄関の外へ出て行った。仕方がないので、僕もそれに続く。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?