今日は、朝食の匂いがした。どうやら早起き出来たみたいだ。台所へ行くと、優斗が「もう少しで終わりますんで。少し待っててください」と煮物を作りながら話しかけてきた。
「あ、うん。わかった。えーと……おはよう?」
「何で疑問形なんすか。おはようで合ってますよ」
優斗の口角が少しあがった様に見えた。まだ優斗以外起きていないからだろうか、穏やかな雰囲気を纏っている。
「今日のご飯も美味しそうだね」
「ま、俺が失敗することなんてないっすから。だからこの家の料理番任されている訳で」
凄い自信だ。武家に仕える料理番って、皆こんな感じなのだろうか。自身に満ち溢れているのは、正直羨ましい。僕には、人並程度の自信があるかも怪しいから。
「そうだ、俺火を扱ってて今ここ動けないんすよ。光希さん、代わりに皆さんを起こしに行ってくれませんか?」
「え? 別にいいけど……」
「使用人一人起こせば、代わりにやってくれると思うんで。お願いします」
それだけ言うと、優斗は火の扱いに戻った。この広い屋敷だ。使用人が何処で寝ているかなんてわからないし、晃生から起こしに行こう。
晃生の部屋の襖をそっと開ける。まだ眠っているらしく、寝息だけが聞こえてくる。
「起きて、朝だよ」
「んん~……この声、優斗じゃねえな……光希か?」
流石の鋭さで、声の主を当てる晃生。
「そうだよ、そろそろ朝ごはんが出来るから皆を呼びに行ってほしいって言われたんだ」
「ああ、そういうことか……。使用人でも起こせば全部やってくれるのに、よくやるな」
優斗と同じ様なことを言うので、それがこの時代のデフォルトなのだと思い知る。この家ではかなり緩いが、一応身分区別はあるみたいだ。
「皆が何処で寝てるかわからなくて……」
「ああ。確かに、使用人は奥の方に寝かせてるから光希は知らなくても無理ねえな。折角だし紬を起こしに行こう」
晃生は起き上がると、「ついてこい」と一言。慌てて晃生の後を追う。
家人と使用人のスペースは、やはりきちんと分けられていた。屋敷の奥の方に、それでも一人一部屋存在するのだから恵まれているはずだ。
「おーい紬。朝だぞ。優斗が皆を呼んでこいだとよ」
声を張り上げて晃生が言う。するとバタバタと部屋の内部で音がした後、紬が出てきた。
「はい、ただいま! 皆さんを呼んできますので、お先に行っていてください」
「はいはい。紬、頼んだぞ」
晃生はそう言うと、使用人のスペースから去っていった。僕もそれを追いかける。