今更ながら、今羽を信頼してよかったのか不安が押し寄せる。これこそ誰にも相談できないし、確実に現代に戻れる保証もないのに。だけど、今羽は帰してくれると言っていた。それに数カ月かかるというだけで。今はその言葉を信じるしかない。
ふらふら江戸の街中を歩いていると、お腹が空いてきた。「これだけあれば大体の物は買える」という言葉を信じ、蕎麦屋の暖簾をくぐった。そこに居たのは老若男女関係ない、人の群れだった。幸い席が空いていたので座ると、店主らしき人物が注文を訊いてきた。流石にせっかちだ、と思いながらかけ蕎麦を注文した。しばらくすると、蕎麦の香りが堪能できることに気がつく。それとかけ蕎麦が運ばれてきたのはほぼ同時だった。
「いただきます」
挨拶をして食べ始めると。つゆの味が案外濃い。これはこれでアリだな……と思った自分は、もうこの時代に適応し始めているのかもしれない。
お会計の時、いくら出せばいいのかわからずお金を全部出すと驚かれた。
「お客さん、大金持ちの坊ちゃんですか? こんなに要りませんよ、うちはこれだけで」
硬貨を数枚だけ取り、残りは早くしまう様に言われた。
「この江戸でも、スリが多発しているみたいなので気をつけてくださいね」
「は、はぁ……。気をつけます」
店員はそう言って送り出してくれた。しかし、スリとは……。現代と案外似通っているのかもしれない。気を引き締め、硬貨の入った巾着を握る。これを盗られては、晃生に申し訳が立たない。