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第2話

 外に出たところで、やることなどない。だって本来なら、身寄りもないのだ。金を持たされても、ご飯代以外に使い道はないし……。ふらふらと歩いていると、敷地がやたらと広い神社に辿り着いた。もう神にでも縋りたい気分だ。僕は鳥居をくぐった。

 敷地面積の割に、お社は小さかった。とりあえず、掃除をしている人に声をかけてみる。

「すみません、ここって神社ですよね?」

「そうだけど……君は何者? あ、いけない。名乗る時は自分からってね。俺は氷川今羽こんば。君は?」

 今羽は少しかがんで、僕に視線を合わせてくれた。

「佐竹光希っていいます」

「佐竹って、将軍家の……いや、何でもない。君、育ち良さそうだもんね。納得納得。ところで、なんでこんなところに?」

 どうしよう。神社みたいに科学では測りきれない場所に勤めている人になら、身の上を話してもいい気がしてきた。それが帰れるきっかけになるかもしれないし。話してみよう。

「実は……僕は江戸時代の人間じゃないんです。もっと先の、未来から来ました。今は帰る方法を探しているところなんです。神社なら、方法も見つかるかと思って」

「なるほど。つまり君は、『迷い人』なんだね。俺の力がもっと安定期に入れば、君を帰すことも不可能ではないと思う。けど、何ヶ月かかるか……。確実にその瞬間を狙うのって大変なんだよな……」

 思ったより好感触だ。しかし、言っていることが不穏に聞こえるのは僕だけだろうか。

「あの、『迷い人』ってなんですか?」

「そっか、そこからかぁ……。君みたいに、この時代に本来いてはいけない人のことをそう呼ぶんだ。俺は実際に会ったのは君が初めてだけど。迷い人を帰すのも、まあ俺たちの仕事の一つだから君が帰りたいのなら協力しよう。とは言っても、俺の神力が安定するまではこの時代にいてもらうことになるけど。それでもいい?」

「わかりました。待ちます」

 藁にもすがるとは、このことだ。今は、彼の言うことを信じてこの時代に留まるしかない。

「じゃあ、悪いけど数カ月待たせるかも。今のうちに色々体験しておくといいかもね。いってらっしゃい」

 半ば強引に神社から追い出されてしまった。


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