夕飯が出来たのは、それから間もなくのことだった。
「折角なんで奮発してやりましたよ。どうぞ召し上がってください」
焼き魚、小松菜のお浸し、白米……江戸時代の武家といえど、現代の食生活には敵わないみたいだ。試しに焼き魚を一口食べてみると、ほろほろと口の中で解けた。優斗の料理の腕は本物だ。皆一様に舌鼓を打っている。
「光希さん、美味しいっすか?」
「うん、すっごく美味しい!」
間髪入れず答えると、「あんたの為に奮発したんだ、マズいって言ったら殴るところでした」と物騒な言葉が返ってきた。
人が居る食卓なんて、随分と久しぶりだ。両親は研究職で帰りが遅いし、学校には長いこと行っていない。この生活も、悪くないかも――そう思えた。賑やかな食卓って、こんなに楽しいんだ。
食事が終わると、「俺が食器洗うんで皆さん、自分の部屋に戻っていいっすよ」と優斗は食器をさげていった。
「ありがとう」
「いいっすよ。これも仕事なんで」
僕は居間を後にした。他の人も、各々の部屋へと戻っていった。僕が自分の部屋に戻ると、布団が敷かれていた。紬が敷いてくれたのだろう。今姿は見えないが、感謝しておく。
……そういえば、この時代ってお風呂事情はどうなっているのだろう。そんなことでわざわざ晃生に声をかけるのも憚られるが、気になるものは気になる。晃生の部屋の前まで移動し、「光希だけど」と声をかけると「何だ? まあ入れよ」と返答があった。
「失礼しまーす……」
部屋に入ると、布団に寝っ転がった晃生が居た。僕も慣れてきたのか、もうあまり驚かなくなっていた。
「あの、お風呂に入りたいんだけど……」
「風呂? あぁ、もうそんな時間か。湯を沸かして貰うか」
まあ、とりあえずお風呂に入れるだけいいか。いるのかわからない神様に感謝をしつつ、風呂が沸くのを待つ。