帰ったら、既に晃生がいた。
「よう、遅かったな。俺はもう疲れたよ……」
彼の仕事は随分と疲れるらしい。顔に生気がない。
「すみません、光希様に江戸の街並みを案内しておりました。今日の夕飯当番は優斗さんだったはずですけど、彼は何処に?」
「食いもんの買い出しに出かけてどんくらい経ったっけな……。まあ、また賭け事でもやってるんだろ」
「いつものことですね」
佐竹家には、やはり何人か使用人がいるみたいだ。そして、恐らく優斗という使用人は問題児なのだろうということも聞き取れる。
「探しに行きましょうか」
「そうだな……ご主人がもう腹減って死にそうってこと付けといてくれ」
「わかりました。光希様は、ここで休んでいてください。今日はお疲れでしょうから」
「ありがとう……」
バタバタと紬は出て行った。昼ぶりに晃生と二人っきりになったが、話すことが見つからない。晃生は相変わらず生気の抜けた顔をしているし、放っておく方が良いのだろうか。無理して笑って貰うよりも、その方がきっと良いだろう。
「悪い、一回寝る。優斗と紬が帰ってきたら起こしてくれ」
晃生は部屋の方へ向かった。彼の部屋は僕にあてがわれたそれよりも、ずっと広かった。屋敷の主なのは、間違いないだろう。これ以上に広い部屋は、この家にはなさそうだ。
一人になった僕は、外に目を向ける。もう辺りが薄暗い。季節で言えば、秋と冬の中間点くらいだろうか。完全な暗闇が、直にやってくる。規則正しい生活になるのは必然だろう。などと考え事をしていると、「ただいま戻りました」という紬の声が聞こえた。慌てて晃生を起こす。
「紬さんが帰って来たよ!!」
大声を張り上げると、数十秒後に晃生は部屋から出てきた。
「待たせたな、悪い。んで、優斗は居るんだろうな……?」
「きちんと捕まえてきましたよ」
満面の笑みの紬と、ふて腐れた様な青年。彼が優斗だというのは、状況から察せられる。
「ちょっと賭けてただけなんですって。人生楽しまなきゃ損じゃないすか」
「お前なぁ、夕飯があるのとないのとでは大きな違いがあるんだぞっ」
この声色の感じ、本気で怒っている訳ではなさそうだ。お決まりの流れなのだろう。
「光希、紹介しとく。こいつは料理番の優斗。作る飯は美味いんだが、どうにも素行が良くなくてな……」
「一言余計っす」
優斗は晃生を睨みつけた。いや、元から目つきがあまりよくなさそうなので、ただ見ているだけかもしれない。目つきの悪さを除けば、優斗は結構な美青年だ。シャープな鼻はどこか海外のモデルを連想させるし、橙色がかった髪色は光が当たると本当にその色に見える。何とも不思議な容貌だ。
「今日の夕飯の買い出しにはちゃんと行ってたんで。今から作りますよ」
確かに、優斗の手には様々な食材が入った籠がある。
「居て貰っても邪魔なんで。夕飯出来たら呼びに行きますから」
有無を言わさず、優斗は僕らを台所から追い出した。