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第1話

 起きたら現代に戻っていることを淡く期待したけど、駄目だった。もう戻れないのかな……。現代に未練しかない僕は、溜め息をつきこれからのことを考える。もし戻れなかったら、永久に居候なのだろうか。晃生はそれでも良しとしてくれそうだけれど、僕自身がそれを許せない。一刻も早く、この時代から戻らなくては。布団から出ると、思ったより汗をかいていたのかパジャマが身体にはりついている。部屋の外に一歩踏み出すと、いつから立っていたのかわからない使用人らしき人と目があった。

「晃生様から聞いております。今日から光希様のお世話は私、如月紬が担当致します。どうぞよろしく」

「は、はい……」

 客以上の扱いではないのか、と思いながらも紬に一礼する。

「光希様は、朝食をとられましたか? まだであれば私が作りますが」

「……そうしてくれると有難いかな。僕、この時代に来てから何も食べてないし……」

「この時代?」

「何でもないっ」

 僕が別の時代からやって来たことは、極力隠した方がいいだろう。紬は僕の言葉に「左様でございますか」と受け、台所のあるであろう方角へと歩いて行った。またしてもやることがなくなった僕は、とりあえず家の中を探ってみることにした。部屋が沢山あって混乱する。居候の身だ、部屋には入らないでおこう。

 トントンと、野菜を切る音が聞こえた。この近辺に台所があるらしいが、今は紬が居る以上探るのはやめた方が良いだろう。とはいえ既に、この家の使用人には何度か顔を見られているのだけれど。使用人、一体何人いるんだろうこの家は……。

一通り家の中を巡り終えたのと、紬の調理が終わったのはほぼ同時だった。

「光希様、出来ましたよー」

「ありがとう」

 料理がのったお盆を目の前に置かれる。時代が違うからか、米の種類も違う様だ。そもそも米なんだっけか、この時代の炭水化物は。他のメニューは小松菜のおひたし、漬物。朝食だからこんなものなのだろうか。それともこれがデフォルト? この時代の基準がよくわからない。

「いただきます」

 まずはおひたしを一口。よく浸っていて美味しい。紬はどうやら料理上手の様だ。漬物も、ほどよい酸味で食べやすい。米? いや多分、米ではない——は、想像よりは美味しかった。

「ごちそうさまでした」

「おそまつ様でした。食器は洗うので、ここに置いておいてください。光希様は、この後ご予定がおありですか?」

「いや、ないけど……」

 来たばかりなのに、予定も何もある訳がない。

「では、市中の散策にでも行かれたらいかがでしょう。私もお供しますから、少し待って頂ければ」

 紬は僕の茶碗を手に持ったまま言う。確かに、僕は現在地が何処なのかもはっきりとわかっていない。案内人が居るのはラッキーだ。

「わかった、待つよ。さっきの部屋にいるね」

「承知いたしました」

 部屋に戻ると、一気に疲れが襲ってきた。この調子でやっていけるのかな、僕……。



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