「ま、マジかよ……」
ザウグは戦闘力と危険度に応じて複数の等級で分けられている。
カテゴリーAとは長く生き、多くの人間や土地から生命エネルギーである魔力を摂取した事で変異した上位種であり、人類に及ぼす危険度は下位二つとは比べ物にならない。
戦闘力もさる事ながら何よりも厄介なのは知能だ。基本的にザウグの知能は獣に毛が生えた程度。だがカテゴリーAになると人間と同レベルの知識と知能を獲得し、姿形も人間を模したものとなる。これは人間社会に潜める事を意味する。
過去にカテゴリーAがギャングや犯罪者を操って国家に多大な損害を出した例は枚挙に暇がない。放置すればどんな犠牲が出るか。
刀悟は彩信に目配せする。いつものおちゃらけたリアクションを取る彼女だが、目線に気づいて小さく頷いた。
「彩ちゃん、いつから知ってた?」
「数日前からかな。最近カテゴリーCの発生が増えてはいたけど、まさかカテゴリーAは予想外だったなあ。」
こりゃ申し訳ないと重苦しい口調で自身の額を叩く彩信だが、刀悟には彼女を責める気にはなれなかった。
カテゴリーCの発生は事前に察知することはできても、その数や能力にはムラがある。
一度に十匹以上が現れでもしなければあくまでも自然現象のムラとして処理されるもの……。
「昨日の夜にレビアを襲っていたラプトル型達はこの島に入ったカテゴリーAの影響かっ」
そういうわけかと頭を掻きながら納得した。
ザウグは人類が支配権を握っている場所では誕生しづらく、したとしても弱体化しているのが常識だ。
人間が排除された地域は汚染地域と呼ばれ、そこから無尽蔵にカテゴリーC、Bが生まれては人類の生存権に対して攻撃を仕掛けてくるが、今も人類が支配権を持っている土地で強力な群れが現れたということは、その土地は上位種たるカテゴリーAによって侵食されているということになる。
刀悟の言葉を認めたレビアはまたポケットから何かを取り出した。それは厳しい環境にも対応できる軍用のスマートフォンだった。慣れた手付きで操作すると、ディスプレイには爬虫類を連想させるような体色と顔つきをした異様な風貌の男が映し出される。
「数ヶ月前に南米で確認されたカテゴリーAです。自らをスカラーと名乗るこいつは、カテゴリーAに変異したばかりの高揚感から無節操に市民の命を奪っていました。現地の軍隊は国内の犯罪組織に手一杯だったので、エージェントである私に討伐命令が下されたのです。結果は無様なものでした。ガーディアンではない私ではこいつの力に太刀打ちできず……」
そこでレビアは忌々しげに下唇を噛む仕草が、今に至る経緯を物語っていた。
「まあまあ、そんな気落ちしないで。カテゴリーAの戦闘力は戦車やヘリコプターが比較対象に上がるような相手だよ。南米の軍隊だとブラジルのBOPE(ボッピ)でもないと対抗すらできないんだから。アビリティがないレビアちゃんがこうして生き残っただけでもすごいって」
見かねた彩信はわざとらしく明るい声を出しながら茶々を入れる。本人としてはフォローのつもりなのだろうが、レビアの反応を見るにあまり効果的とは言えない。
「生き残るだけでは意味がないんです」
そんな彩信に応えるように、レビアは再び重い口を開いた。
「たとえガーディアンでなくても、私はザウグの驚異から市民を守るために戦ってきたんです。なのにカテゴリーAを相手に返り討ちに遭い、おめおめと逃してしまった自分が許せない。CIAはNAC内で現れたカテゴリーAが他国で被害を出せば政府の信用問題に関わるから内密に倒せなどと言ってましたけど、連中の面子なんかを気にして何の関係もないこの島の人達が犠牲になるかも知れないなんて。私には耐えられません」
レビアは一度顔を上げると、深々と頭を下げた。
「恥を忍んでお願いします。私のためではなく、この世界に住まう人達のためにも、この島に潜伏しているカテゴリーAの討伐に協力願いますっ」