「お待たせしたわねー」
「あ、お、おかえりなさい……」
柊さんの言葉に昔のことを思い出していれば少しテンション高めの柊さんが服を持って戻ってきて慌てて取り繕う
「どうしたの? そんなに焦った様子で」
「いえ、別に……お、お化粧なんて凄い久しぶりにしたのでちょっと落ち着かないというか」
不思議そうに聞いてくる柊さんに誤魔化すがまぁ、嘘はついていない
化粧なんてしっかりしたのはあの日以来だ
「そう? 安心して、ちゃんと可愛いから……で、これが今回のコーデなんだけどどうかしら? デザイナーチームの人に見せるのは少し恥ずかしいのだけれど……」
柊さんは言いながら持ってきた服を床に並べる
「今の流行も取り入れられててす、すごい良いとは思うんですけどっ……それ、私が着るんですよね?」
並べられた服は今年の流行のつけ襟をさりげなくあしらわれた薄ピンク色をメインとした服とプリーツの入ったスカートだった
それ以外にもアウターと靴に小物も色々
「ええ、そうだけど……あなた肌白いから似合うと思うわよ? それとも、本職の人からするとこの色って白い肌に合わないのかしら……」
「そんなことないです! ただ、フリフリとか、スカートとか……私には似合わないんじゃないかなーって……」
少し自信なさげにそういう柊さんの言葉を必死で否定しながら私の気持ちをそのまま言葉にする
でもさっきみたいな卑屈な気持ちは全然顔を出してこなくて
きっとそれも柊さんが笑わないと言ってくれたお陰だと思った
「なんだ、そっちのことね、安心しなさい、あなたは今化粧をして戦闘準備は万端なのよ、しっかり着こなせるわよ、そんなに心配ならもう一度鏡見せましょうか?」
柊さんは言いながら手鏡に手を伸ばす
「だ、大丈夫ですっ……それじゃあ着てきますから!」
だから私は慌てて服を手に持って自分の部屋に飛び込んだ
「ええ、待ってるわー」
後ろからは楽しそうな柊さんの声が聞こえた
「これを、私が着る」
私は部屋でもう一度服を確認する
今までこんな女子的な服なんて全く着てこなかった
着ている自分が想像すら出来ない
「……いや、あり得ないって、だって笑われ――」
一人になって後ろ向きになってしまう自分の頭に過るのは柊さんのあの一言
「着ても、いいのかな……」
私は一度、服を自分にあててみて
それから
「よし……」
覚悟を決めると袖を通した
「あの、お待たせしました……」
着替えてからおそらく数分
きっと十分は経っていないと思うがそれぐらいの時間悩んだ後に私は部屋を出てリビングに入った
「きゃー! やっぱりあたしの目に狂いはなかったわ! すっごい似合ってる、可愛いわよほら!」
柊さんの選んだ服を着た私を見た柊さんは嬉しそうに悲鳴をあげてから姿見の前に私を引っ張っていく
「ちょっ、柊さん! 待っ……っ」
流石にいきなり全身を見るのは怖い、というのが私のなかに残っていた
だが無理やり立たされた姿見に写っていたのは憧れたあの子達のような私だった
「どう?」
言葉を失った私の両肩に手を置いて柊さんが聞く
「これが……私?」
そんな柊さんに私は聞き返す
「そう、ちゃんと化粧して服もおめかししたあなた、元々可愛かったけど、すごいでしょ?」
「……」
まるで自分のことのように喜んでくれる柊さんの言葉に流石に頷くことは出来なかったけど、無言のまま私はプリーツの入ったスカートの裾を摘まんで少し体を捻ってみる
それだけで充分に私の感動は柊さんに伝わったようだった
そして柊さんが口を開く
「あたし達の職はね、世界中の子達にこういう感動を与える職業なのよ、それって……すごいことだと思わない? あなたのデザインした服もこういう感動を与えてる、あなたが趣味でデザインしている服も沢山の感動を与えられると私は思ってるわ」
「そう、ですかね……」
フリフリだったりふわふわだったりした服を仕事でデザインしたことはない
だが仕事でデザインする服だって私は真剣にデザインしている
そんな私のデザインした服を着て、私みたいな気持ちを味わってくれている人達が世の中にいる、という事実がただ、嬉しかった
「ええ、さて! これは準備段階だってことを忘れたらいやよ? これからこの格好で町に繰り出すんだから!」
「あ、でもっ……」
柊さんは言いながら私の手を取る
感動したからといって流石にいきなり外に出るのは憚られる
少ししり込みする私のほうを柊さんは振り返って
「大丈夫、ちゃんとあたしがエスコートするから、ね?」
そう言ってまた、優しい笑顔を浮かべた