ご飯を食べ終えて早速シャワーを浴びるために洗面所に向かえばいつの間に準備したのかしっかりとフェイスタオルとバスタオルが準備されていた
それから洗面所の鏡の周りの棚に並べられた沢山の美容用品に柊さんの女子力の高さを改めて再確認する
着替えは持ってきてあるから昨日のように服を借りる必要もない
私は早々に服を脱ぐと浴室へ向かった
「ただいまー、ちゃんとシャワー浴びた?」
私がシャワーを上がってから数十分経つか経たないかぐらいで柊さんは帰ってきた
コートは着ていったもののこの真冬だ、寒かったのだろう頬は赤みを差していた
「あ、はい、食器、一応洗っておきました……何か漆器とかこだわりあったらごめんなさい」
とりあえずやってもらいっぱなし、というのも気が引けたため勝手に洗わせてもらったがよくよく考えればこれだけ生活に気を配る人ならばこだわりがあってもおかしくない
「あら、わざわざありがとね、別にこれはこれで洗わないととかそういうのはないから気にしないで大丈夫よー、それからはいこれ」
だがそんな私の杞憂を一蹴すると目の前に可愛らしい容器が置かれた
「これは……」
柊さんのほうを見れば手にはビニール袋が下げられており
「コンビニの新作プリンよー、本当はこんな時間に甘いもの食べたらお肌にも良くないし太るんだけど……今日だけ特別、他の人には内緒よ」
柊さんはそれだけ言うと片目を積むって自分の分のプリンも取り出す
「わざわざありがとうございます」
再三言うがここまで何から何までしてもらうとさすがに申し訳なくなってくる
だがこれでいらないなんて言えばそれこそ失礼だ
私は持っていたペンを置いてプリンに手を掛ける
「いいのよー、ひとりでするよりふたりのほうが罪悪感も薄れるでしょ? それよりあなたまた描いてるの?」
柊さんは言いながら私の手元を覗き込んで感心したような声をあげる
「あ、はい、基本家ではこれしかしないんです、他にこれ以外にすることもないし、小説は読んだりもしますが……」
私は柊さんに服のデザインを既に見られたことを良いことに柊さんが帰ってくるまでの間手持ち無沙汰になった私はいつも自分の家でしているように趣味の服のデザインをしていた
誰かと話したり遊びに出かけることもない
テレビも別に見たいものはない
そんな私の趣味であり時間潰しがこれなのだ
それ以外は小説を読む時もあるにはあるが今日は本は持ってきていない
「……そんなに熱意を持てるものがあるってのはあたしは素敵なことだと思うけどね」
そんな私の自虐にたいして柊さんは考えるように顎に手を添えてそう言った
「そう、でしょうか?」
仕事で服のデザインをして、家でも服のデザインをするなんて日常をわざわざ話す相手もいなければ知っている相手もいない私にはよくわからない
「そうよー、あなたの部屋に並んでた沢山のデザイン本やファッション誌を見てもよく分かるわ、こんなに没頭する何かってそうそう人生において見つかるものじゃないから大切にしなさいね」
柊さんはそんなことを言いながら立ったままプリンを食べきってゴミ箱に投げ捨てると部屋のドアに手を掛ける
「……はい」
大切にする
私にとって服のデザインはあまりにも日常の一部になっていて、それが大切なものだという認識すらなかった
「……んー、だからこそ勿体なくなっちゃうのよね」
「え?」
ガチャっと扉を開く音と同時に柊さんは聞こえるか聞こえないかの声でそう呟く
「あの服とか、今の服だって本当は……いえ、これは今あたしが言うことでもないわね……さーてと、あたしもシャワー浴びてくるけど覗いたら嫌よ?」
だが聞き返した私に答えを示さないまま話を区切りいたずらっ子みたいな笑顔でそう返してくる
「の、覗きませんよっ……」
私が慌ててそう返すのを見て柊さんは満足したように部家を出て扉を閉めた