「いい? 部屋の鍵は必ずかけること」
あれからココアを飲み終わってすぐに部屋に案内されたが柊さんは入って来ずに言いながらドアについている鍵を指差す
「こんなところまではあの人も入ってこないと思いますけど……」
流石にストーカーだからといってここまで入ってくる、ということはないと思う
今までも家のなかまで入り込まれたことはない
さらに言うならここは柊さんの家だから余計そういうことはしてこないだろう
前よりも悪化してきているとはいえだ
「そういうことを言ってるんじゃないのよ……とりあえずちゃんと鍵は掛けなさいね」
「わかり、ました……」
柊さんはまた困ったように眉間を押さえたが諦めた様子でもう一度念を押す
「それじゃあお休みなさい」
そして柊さんはそれだけ言って自身の部屋だと思われる向かいの扉を開けて消えていった
ガチャリ
私は言われた通りにドアを閉めると内側から鍵をかけて敷かれた布団の上に倒れ込む
「……なんだろう、安心する」
私は誰に言うでもなくそう呟く
最近はずっとあの男のことが頭を過って家にいても安心出来なかった
もし家のなかにいたらどうしようとか、外で待ち伏せされてるかもとか、そういうことばっかり考えてしまうのだ
だからきっとすぐ隣の部屋に柊さんがいてくれることが安心に繋がっているのだろう
彼は会社でも分け隔てなく接してくれる稀有な人だ
ファッション関連の仕事をしているのにお洒落でもなく、化粧っ気もない私を馬鹿にすることもしない
まぁ影では何か思っていたり言っているかもしれないが、目の前や聞こえるところで私のことを嗤う他の人よりはずっとマシ
そもそも柊さんならそんなことすらしなさそうではあるが
そして、告白を断られて、あの男に付きまとわれるようになってからすっかり男性恐怖症になってしまった私が唯一普通に話すことの出来る男性
それが柊さんだ
きっとあの口調とか、行動とか、そういう女子的なところが私を安心させてくれるのだろう
それからあの日のこともきっと原因の一つ
だから、柊さんは怖くない
「今日はゆっくり眠れそうかな……」
私は布団から起き上がって柊さんが貸してくれた新品のTシャツに袖を通してまた布団に倒れ込む
でも、柊さんは何をあんなに怪訝そうにしていたのだろうか
家に帰せないと言い出したのは柊さんのほうなのに
そんなことを悶々と考えていればだんだんと目蓋が重くなっていって、気付いたら意識を手放していた