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第26話『スワローの時代』

 素材のランクは手間暇よりも危険度が重要視される。だから基本的にはハンターの方が儲かるが、さっきの蜜袋のように特殊な素材はその価値が跳ね上がる。


「なるほど……」


 スワローとロロはそれからもスイーツを端からアウルに尋ね、結局見た目が一番豪華なケーキを選んでいた。


 それからすぐにデザートが届くと、それを頬張りながらロロが口を開く。


「それで、さっきの話なのですが、この世界を見ていて僕達が感じたのは、何もかもが大きいという事です。もしかしてこの世界の生物は皆、人間を除いて巨大化しているのですか?」

「それは君たちの世界にどんな生物がいたかにもよるんだけど、例えばミスティバニーは君たちの世界ではどんな生物に近かったの?」


 アウルの言葉に答えたのはスワローだ。


「バニーって言うからにはウサギ。私達の世界のウサギはせいぜいこれぐらい」


 そう言ってスワローが示したのは30~40センチだ。


「それは可愛らしいね!」

「うん、可愛い」

「中には大きな品種のウサギも居たようですが、平均はそれぐらいのはずです」

「まじかよ。それじゃあモールリーパーなんかは……」

「20センチも無い」

「まじかよ!? あいつらめちゃくちゃ獰猛なんだぞ!」


 肉食のモールリーパーはどこにでも生息しているが、土の中のギャングとも呼ばれている。普段は昆虫などを食べているが、繁殖期なんかになると普通に人間や他のモンスターをも食らう。


「マジです。まぁモグラはなかなか獰猛ですよ。でも小さいので人間にはさほどの脅威でもありません。なるほど。という事は、人間以外の生物が巨大化してしまっているのかもしれませんね……何が原因なんだろう」


 口元に手を当てて考え込むロロを横目に、スワローはとうとうケーキを食べ終えて、案の定俺のデザートをそっと自分の方に引き寄せている。


「おい、せめて一声かけろ」

「ちょうだい」

「おお」

「悪いな」

「……ありがとう、な」


 どんどん口が悪くなるスワローに思わず半眼になるが、ロロとアウルは生態系についてまだ話し込んでいる。これはもう二人にしてやった方が良いのかもしれない。


 部屋に戻りいつものように今日のニュースを確認していると、ふと気になるニュースが耳に飛び込んできた。


『――アイスピックで起きた大爆発により、巻き込まれた研究者は15人だと言う事が判明しました。一部の研究者は残っていた部位から遺伝子鑑定により身元が明らかになりましたが、大半の研究者はビオナの生存反応が消えた事から、死亡したと断定されています。この事故の原因は未だ分かってはいませんが、セントラリオンは今回の事に関して「多くの尊い研究者が命を落とした事が残念」だと述べ「違法な方法で自治区に研究者達が結託して侵入した事」があった事に対して非難しました。次のニュースは――』

「おいおい、あいつら勝手に入り込んだ事にされてるじゃねぇか」


 俺はココジュースを飲みながら呟いた。


 どうやらセントラリオンは研究者たちが勝手にあの地区に入り込んだと言う事にするつもりらしい。


「なるほど、だからコードだったんだな」


 ビオナの生体認証を使わずに配布したコードを使ったのは、どうやらそういう理由のようだ。


「こりゃアウルの言う通り、全部罠だったって事か」


 研究者が何かを探るのを今になって阻止しようとする理由は分からないが、何かしらの意味がある事だけは間違いない。


「白紙の時代を探られるのが困るのか?」


 ぽつりと呟くと、風呂から出てきたスワローが俺の隣にちょこんと腰掛けて無言でタオルを俺に渡してくる。これは髪を拭けという合図だ。


「お前は俺の事を召使か何かだと思ってんのか?」

「自分で出来ない。仕方ない」


 どこまでも不器用なスワローは髪を乾かすこともままならない。こんな人間が生きていられた時代というのは、どれほど豊かだったのだろうか。


「はぁ……お前みたいな奴らが生きていけてたんだから凄い時代だな」


 思わず思った事を呟くと、スワローは特に気にした様子もなくコクリと頷いた。


「人間は何もしなくて良かった。洗人機に入ったら勝手に髪も体も乾く」

「そりゃ便利な事で。でもお前らは施設に居たんだろ? 外でもそうだったのか?」

「そう。月に一回だけ外に出られる日があった。スー達はテストタイプだから神様と一緒に行動する」

「神様?」

「スーとロロを創った人」


 それを聞いて曖昧に頷いた。まぁ確かに誰かの手によって創られた存在という意味ではそれは神様かもしれんが、嫌な呼び方だ。


「ま、いいや。それで外はどんなだったんだ?」

「大きな塔があって、その周りにいっぱい建物が密集してる。施設から出て街に入ったら地面からロボットが出てきて、網膜のチェックされる。スーとロロの網膜は複雑すぎて真似出来ない。だからいつもロボは混乱してた」

「ああ、お前の目変わってるもんな。ルーメレオン(カメレオン)みたいだ」


 スワローの虹彩は変わっていて、光りの当たり具合で赤色からオレンジ、橙と変化する。

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