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第24話『正当な報酬』

「こいつは何でも溶かすから廃棄物やゴミ処理場で使われる。この蜜を集める業者がいるぐらい裏では貴重な品物なんだ」

「それなら今までも持って来た奴いるだろ?」

「居ない。業者どもは茎からこの酸を生成してたんだ。で、どうやって取るんだ?」


 店主はメモ用紙を片手に俺を見上げる。決してビオナに書き込まない所にこの店主の用心深さが伺えた。


 蜜袋の取り方を説明した俺は残りの素材も全て売りさばき、そのまま食品加工場へ移動する。ここで肉を買い付けておいてやらないと、スワロー辺りが拗ねるに違いない。


 ミスティバニーの肉は思っていたよりも高く売れた。あいつはグレイシアの中央部にしか生息しないので、ここでは珍しいようだ。


 ようやく一仕事終えてパブへ向かうと、入口からでも目立つ一行が、よりにもよって広いパブのど真ん中を陣取っていた。案の定周りからは注目の的だ。


 アウルが何を考えているのかさっぱり分からなくて早足でそこへ向かうと、俺の姿を見つけたスワローがこちらへ向かって駆けてくる。


「何だよ。可愛いとこあるじゃねぇか」


 出迎えか? そう思ったのもつかの間、スワローは俺の元までやってくると無言で俺の腰からポーチを取り、手から今しがた持ち帰った肉塊を奪い取ってまた席へ戻っていく。


「……」


 俺より肉か。そりゃそうか。何となく悲しい気持ちになりつつ席につくと、身を乗り出してアウルに問いかける。


「おい、何だってこんなど真ん中にいるんだよ。めちゃくちゃ目立ってんぞ」

「そう? 俺あんまりそういうの気にならないんだよね」


 飄々とそんな事を言いながらアウルは机の上の肉焼き器をスワローの前に差し出し、ドリルをロロに渡した。


「あと何個削れば良いんですか」

「全部だよ。はい、頑張って」

「加工前のを持ってきたのか?」

「そっちの方が安かったからね。はぁ、やっぱビオナ無いと不便だよ。採寸は終わらせてきたよ。仕上がりは2日後だってさ」

「分かった。こっちも素材が思ってたよりも高く売れた。後で半分渡す」

「ありがと。さて、それじゃあ肉焼きお嬢さん、そろそろ俺達の分も焼いてくれるかな?」

「まだスーの焼いてる」


 そう言うスワローの前には大きな肉塊が既に3つもある。


「既に3つもあるだろうが。食いすぎだ。腹壊すぞ。ほらアウル、ロロ、こっから持ってけ」


 言いながら俺が肉塊の入った皿を二人の前に押しやると、スワローはじっとこちらを見つめてくる。


「何だよ」

「スーの無い」

「今焼いてんだろ」

「足りない」

「足りる。もっと食いたかったら剥ぎ取り方の練習しろ」


 スワローの剥ぎ取り方は皮も滅茶苦茶だったが肉も滅茶苦茶だった。骨についた肉はこそげて持ってきたが、あれでは売り物にならないのでそのままソーセージ行きである。せっかくのミスティバニーが勿体ない。


 俺の言葉にスワローはしばらく考えて頷く。


「分かった。スーは肉ハンターになる」

「なんだよ、肉ハンターって。聞いた事ねぇわ」

「肉を極める」

「おお、頑張れ」


 よく分からんが何にでもやる気を出すのと極めるのは良い事だ。


 そんな会話をする俺達の前では、すっかり肉に慣れたロロが、色んな調味料を肉にふりかけて食べている。こうやってこの二人を見ていると、確かに個性が強いような気がしてきた。


「そういや、あれも売れたぞ。蜜袋」

「マジで?」

「おう。70万だとさ。それはロロに渡す」

「良いんですか?」

「構わねぇよ。あれを取ったのはお前だからな」


 肉に齧りつきながら言うと、ロロは目を丸くしてこちらを凝視してくる。


「何だよ」

「いえ……下っ端から得た利益を着服しない人間が居るのですね」


 何かを考え込むように言うロロに俺とアウルは思わず顔を見合わせた。そんな事はこの世界では常識だ。それでもロロ達の時代ではどうやらそうでは無かったらしい。


「この世界では狩った者だけが富にありつける至ってシンプル構造だ。お前の集めた素材もお前のもんだ」

「そうだよ、ロロ。アエトス、疑似ビオナが手に入るまでそれは預かっておいてやって。架空口座開いたらそこに入れるから」

「へいへい。見つからないようにな」


 何かと悪巧みをしていたであろうアウルと一緒に居る事で俺まで巻き添えを食らってセントラリオンの監視対象になるのはごめんだ。


「僕がそんなヘマするように見える? 大丈夫。足はつかないように改造してあるから。それにロロならもしかしたら、もっと良い物作るかもね」

「……そうかよ」


 昔からこいつはこういう事ばっかりしている。なまじ頭が良いからだろうが、そこにロロという強力な助手を得てしまって、一体どうなるのだろうか。


 俺の相棒はスワローで本当に良かった。そう思いつつちらりと視線をスワローに向けると、獣よろしく肉を貪っている。その顔はまるで何も考えていない顔だ。

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