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第23話『倫理観』

「すげぇ倫理観だな」

「まぁ倫理や正義なんて時代によって全く違うからね。それがロロ達の時代の普通で、皆もそれを受け入れてたって事か。でも君たちは何の因果か俺達の時代に目覚めた。そういう価値観はゆっくり変えて行こうね、ロロ」

「はい。郷に入っては郷に従えという古い諺という物があると睡眠学習で学びました。それは正しいと思います。その次代に決められたルールや倫理を大切にするのは、後からやってきた者の宿命です」

「いや、そんな難しく考えなくていい。単純にこの世界で生きるなら手伝え。そんだけだ。ほれ、お前はこれな」


 そう言って俺はスワローがさっきからぼろぼろ落としている荷物を拾い上げてロロに渡した。


「……あともう一つ。スワローは何をするにも雑さというか、粗さが目立ちます」

「その通りだ。あと実に自由だ」


 前方を見ると荷物を運ぶ事に飽きたのか、スワローが座り込んで膝に肘をついてぼんやりとこちらを見ている。


「おい、肉汚すなよ」


 その言葉にスワローはようやくハッとして立ち上がり、何を思ったか自分の服の中に肉塊が入った麻袋を仕舞い込む。


「……」


 その行動に俺達は思わず黙り込んだ。あいつの思考回路は、多分一生分からない。


 ところで、集落に入るには必ず生体認証が必須である。アイスピックでもそうだったが、ビオナを持たない者は本来は集落にすら入ることは許されない。


 けれど、何事にも抜け穴がある。


 俺はビオナを取り出してまずは自分が入った。それからしばらくしてビオナだけを外に放り投げ、それを使って今度はスワローが入ってくる。これを繰り返して全員が集落に無事に入る事が出来た。出来たのだが。


「なぁ、いちいち面倒なんだが」

「仕方ないでしょ。俺達はビオナが無いんだから」


 飄々とそんな事を言うアウルの背中を殴りつけて、スワローから肉塊を奪い取った。


「俺は素材と食品売ってくる。お前は加工頼んだ」

「分かった。君たちは採寸するから俺についてきて。それじゃ、またパブで」

「おお」


 皆と別れて集落の掲示板をビオナに落とし込むと、ビオナにこの集落の詳細が表示される。


「素材屋と食品加工がしたいんだ。マップ開いてくれ」

『畏まりました。マップを開きます。音声での案内は必要ですか?』

「んなもんいらん。それよりもポーチの中にある販売予定素材のここでの適正価格を割り出してくれ」

『畏まりました』


 集落にはそれぞれ素材の適正価格という物が設定されているが、例えば俺みたいに初めてやって来た者への洗礼として、大体の店が買い叩くかふっかけてくる。


 それをさせない為に仲間たちとこういう細かい情報を共有し合うのは生きる術だ。


 しばらくするとビオナはポーチの中の素材とここでの適正価格を照合し、教えてくれた。こういう時は非常に便利な相棒だ。


 俺はハンター仲間たちから得た情報を頼りに沢山ある店の中から、数件の店を回る。


「よぉ。リヴィエントの花弁を売りたいんだが、いくらになる?」


 一軒の店で声をかけると、店主はノロノロと顔を上げて鼻で笑う。


「リヴィエント? 穴だらけじゃないだろうな?」

「まさか」


 そう言って俺はリヴィエントの花弁を一枚取り出した。それを見て店主はゴクリと息を呑む。


「……やるじゃないか。お前、ハンター名は?」

「アエトス」


 それを聞いて今度は店主の相好が崩れ、突然大声で笑い出した。


「お前! 能無しアエトスか!」

「……そうだよ」


 その不名誉な二つ名だけは本当にどうにかして欲しい。そう思いつつ頷くと、店主は咳払いを一つしてこちらを見上げてきた。


「悪い悪い。グレイシアの連中から連絡が入ってたんだ。滅多に集落に立ち寄らないが、腕の立つハンターが居るってな。脳筋だがそいつの素材はなかなか優秀だからお目にかかったら買い取れだとさ。高値で買うよ。この出来なら高級フロラリスが採れるだろうからな」

「そりゃ良かった。あとこれなんだが、こういうのは買い取れるか?」


 ポーチから取り出したのは、ロロが取って帰ってきたリヴィエントの蜜袋だ。あの酸を見る限り、何かしらに使えそうだがどうだろう。


「なんだ、こりゃ」

「リヴィエントの蜜袋だ」


 それを聞いて店主は一瞬目を点にしたかと思うと、突然俺の腕を引いて耳元でコソコソと話し出す。


「お前、正気か? どうやって取った? 中の酸は無事なのか?」

「もちろん無事だ。ただ、この蜜袋を扱うにはちょっとコツがいる。今回はその情報もセットで売りたい。どうする? 買うか?」

「もちろんだ! そうだな……40万でどうだ?」

「馬鹿言うな。大人のアイスベア2匹分じゃねぇか」


 俺が机の上にあった瓶に手をかけると、店主は慌てて言う。


「70万だ。情報込みで70万。どうだ? 悪くないだろ?」

「ああ。売った。で、これは武器に加工されんのか?」


 こんな何でも溶かしてしまう液体に何の使い道があるのか不思議だ。


 すると店主は瓶をさっさと台の下に仕舞い込んでゼノの支払いをしながら話し出す。

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