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第22話『人間の牧場』

 途中で集落を見つける事が出来ず野宿を五回もしたが、南下していると周りの景色も少しずつ変化してきて氷が少なくなってきた。


「寒くなくなってきた」

「上着脱ぐか?」

「うん」


 スワローは今日は朝からずっとバイクだ。何故ならバギーの中にはこの5日間でロロが集めた素材で一杯だから。


「しかしあいつは何か収集癖でもあるのか?」

「ロロ?」

「おう」

「ロロは好奇心旺盛。そこが一番駄目だって言われてた」


 好奇心旺盛なのが駄目なのか。何て理不尽な時代なのだ。


「それ抑えるためにロロの部屋には何も無かった。置いたら叱られる」

「ひでぇ」


 いや、でもあの調子でどんどん集めていたらロロの部屋は確かに酷い事になっていたかもしれない。


「で、お前はどうだったんだ?」

「私は感情がすぐにバレる。それが駄目」

「ああ……な」


 無表情の割にスワローは感情が分かりやすい。表立って喜んだり嬉しそうにする事はないが、気に入るとずっとそれをしている。というか、食べている。


「ミスティバニーはそんなに美味かったか」

「うん。美味い。ルビリムも美味い」

「だろうな。お前、俺のポーチを食材入れか何かだと思ってるよな?」


 こいつだけは本当に、気がつけばポーチの中に気に入った食材をどんどん入れるのだ。そして勝手に取り出しては食べている。


「アエトスのポーチの半分はスーのだから良い」

「いつ決まったんだ。おっと、集落が見えてきたな。あの集落にはグレイシアとソルティアーナの物が揃ってる。今日はあそこで一泊だ。ついでにリヴィエントも売る」

「分かった。今日はベッドで寝られる?」

「ああ」


 短く返事をしてアウルに集落に立ち寄る事を伝えると、俺はスピードを上げた。


 ようやく長かったグレイシアでの生活が終わりを告げようとしていた。


 ここの集落はグレイシアの集落とは違い、ちゃんと地上にある。


「アエトス、集落登録」

「へいへい」


 アウルに言われてビオナに現在地を登録すると、バイクを下りて集落の前に無秩序に置かれている乗り物群の隙間に止めた。


 一方バギーのアウルは駐車出来るスペースを探してウロウロしている。その間に俺はせっせと荷物を下ろしてスワローに渡した。


「アエトス、重い」

「今まで食ってたルビリム分ぐらいは頑張れ。これで最後だ」


 立派なハンターになるには体力を付けなければいけない。俺の後ろでルビリムを三個も食べているようではいけないのだ。


「ルビリムどっか行った」

「嘘つけ」


 最後の荷物をスワローに手渡すと、とうとうスワローはそのまま荷物の重さに耐えかねてくしゃりと膝から崩れ落ちる。


 そこへようやくバギーを止めたアウルとロロがやってきた。


「あーあ、荷物に埋もれちゃって。アエトスー、そんなだから番の一人も見つからないんだよ」

「余計なお世話だ。ほら、これぐらいなら大丈夫だろ」


 荷物に埋もれたスワローの上から荷物を取り除くと、ようやくスワローが立ち上がる。


「大丈夫」


 結局スワローはミスティバニーの肉塊だけを大切そうに抱えて意気揚々と歩き出した。そんな後ろ姿を見て俺は呆れるが、アウルはおかしそうに目を細めている。


「大分ハンター生活に慣れてきたのかな」

「スワローはもともと物事に頓着しません。彼女だけはどこへ行っても生きていけるだろうと、研究者の間でも言われていました」

「そうなのかよ」

「はい。オリジナルとなった素体は各能力に秀でた者たちが集められたようですが、僕達には彼らの全ての遺伝子が組み合わされています。ですが流石に全てを均等にという事は出来なかったようです。そしてプロトタイプはパターン分けされたオリジナルの遺伝子からそれぞれの組み合わせが試されました」


 ロロの言葉に俺達は深く頷いた。


「でも君たちの時代では自由に子どもを作る事が出来なかったんでしょう? 人口の比率や子どもが欲しい時なんかはどうしてたの?」

「お腹と呼ばれる施設に親となる二人が見学に来るのです。そして自分たちの遺伝子の優れた所をベースに好きにカスタマイズしていきます。そうして10ヶ月後、ようやく我が子とご対面という訳です。ですが途中で別れてしまう親も居ます。そういう子どもがプロトタイプとして登録される場合もありました。人口の比率は常に監視されていて、少なくなればプロトタイプを創り補充し、多くなればプロトタイプを実験場に入れて調整していました」


 淡々と語っているが、それはもう完全に人間の牧場か畑のようだ。


 品種改良を重ね、こちらの都合の良いように育つ品種だけを残すという事なのだろう。

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