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第21話

 トゲ地獄が終われば次は花粉だ。思っていたよりも細かいのと、異様に臭い。


「ごっほ! くっせぇ! あーくそ! そりゃランク7だろうよ!」


 この匂いを何と例えれば良いだろう? 卵が腐った匂い? 生ゴミを寄せ集めて煮たような匂い? へそのゴマ? 何でも良いが、とにかく臭い!


 意味もなく怒る俺を下からスワローが無表情で見上げている。何だかそれが無性に腹立たしくてわざと茎を揺らして花粉をばら撒いてやると、隣でアウルが涙目で噎せている。


「ちょ! アエトス!? 止めてくれる!?」


 肝心のスワローはと言えば、頭に大量の花粉を積もらせて少しだけ眉根を寄せていた。


「臭い」

「そうだろう? これがハンターだ。分かったか。分かったら応援しろ」

「……頑張れ」


 何とも覇気のない応援だが、無いよりはマシだ。


 花粉も乗り越えてどうにか花弁の根本まで辿り着くと、根本を一気にスパッと切り落とす。それを下でスワローが右往左往しながらキャッチした。


「この調子でどんどん切るぞ。落とすなよ」

「臭い」

「我慢しろ。俺等の方が臭い」


 短く言って俺は次から次へと花弁を落とす。一本終われば次の花に移り、またスワローに花粉をかけて花弁を落とす作業をしていると、いつの間にかアウルは下でスワローと一緒に花弁集めをしていた。


「お前、何で早々に止めてんだよ」

「いや、いつまで採ってるのかなと思って」

「は? どんぐらいいるんだよ?」

「もう十分だよ。むしろ余る」

「早く言えよ! お前、何で毎回毎回そういう事黙ってんだよ!?」


 秘密主義なのか何なのか知らんが、あのN504地区にしても今回にしても、アウルは大事な事をいつも言わない。


 俺はツタを滑り降りてアウルの胸元を軽く殴りつけると、スワローが重たそうに抱えている花弁を受け取ってリヴィエントの群生地を後にした。


「あれ? ロロは?」

「知らん。おいスー、これ畳め。出来るとこまで小さくしてポーチに入れろ。破くなよ」

「うん」


 言いつけどおりにしゃがんでリヴィエントの花弁を畳みだしたスワローを横目に辺りを見渡すと、リヴィエントの群生地からロロが出てきた。


「ロロ!? そっちは蜜袋撃ってないんだけど!?」


 アウルが弾かれたように走ってロロの安否を見に行くが、ロロは何て事のないような顔をしてアウルにさっきよりも大きめの瓶を渡している。


 中にはびっしりとツタが入っていて、その中央にあの蜜袋がいくつも詰め込まれていた。


「これ採ってきました。コツさえ分かれば蜜袋は破かずに採る事が可能です」

「え……これ、蜜袋?」

「はい」

「いや、これ取ってきてどうすんの?」

「何かの役に立つかと。どうやらこの蜜はツタだけは溶かさないようです。この植物は僕達と同じで触覚があるようですね」

「つまりあの花はその触覚を使って敵か味方かを判断していると?」

「そういう事です。その匂いも手袋の細かいトゲもそうでしょう。少しの衝撃で弾ける上に花粉が異常な程臭いのでは繁殖が出来ませんからね。恐らくリヴィエント専属の昆虫か何かが来た時だけこの花は攻撃を止めるのではないでしょうか」


 ロロはそう言って瓶にさらにツタを詰めた。結構乱暴に詰めているのに、確かに蜜袋は全く破れない。俺とアウルは共に顔を見合わせてゴクリと息を飲んだ。


「おい、こいつ」

「うん……俺の助手にしようと思う」

「それが良い。絶対見つかるなよ」

「分かってる」


 恐らくロロが秀でているのは頭脳と洞察力なのではないだろうか。これがセントラリオンに見つかれば、きっとロロは回収されてしまう。


「出来た。臭い」

「俺も臭い。源泉まで我慢しろ。で、どうする? バギーに乗るのか?」


 意地悪に笑いながら言うと、スワローは少しだけ考えてバイクに乗り込んだ。


「ロロだけ地獄」


 珍しく楽しそうにそんな事を言うスワローに、俺も珍しく声を出して笑ってしまう。


 実際スワローの言う通りで、その後どうにか源泉を見つけて乗り物を停車させると、バギーの中からロロがヨロヨロと這い出てきた。


「く、臭い……」

「ごめんごめん! すぐ洗ってくるから。その間バギーの換気しといてくれる」

「当然です。頼まれなくても換気します」


 マスクを外しながらロロはバギーの窓を全開に開く。どうやらアウルとは相性がとても良さそうだ。


 それから俺達はさらに南下した。道中でモンスターにも出会ったが、まだミスティバニーの肉があるので無駄な狩りはせずにバイクを走らせていく。

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