『ツタは他のフロラリスと同じく、適当な長さに切り取り煮詰めてアクを抜き叩いて鞣します。花からフロラリスを採取する場合は乾燥期に入ってもなお発色している花弁だけを使います。採取の際の注意点は、リヴィエントには花の先に長く伸びた蜜袋という部位があり、この蜜袋は微かな衝撃で弾けてしまいます。そのため花弁に近づく事が非常に困難で蜜は空気に触れると揮発しますが、とても強い酸性の特性を持っており、何でも溶かしてしまう習性があります。採取する際にはこの蜜袋を先に精密銃で撃ち抜く必要があります。それでは、良き採取ライフを!』
そこでビオナは話すのを止めた。それを聞いて俺達は思わず顔を見合わせる。
「なぁ、別に少々火傷してもリヴァイタで一瞬なんじゃねぇか?」
「俺も一瞬そう思ったけど、俺達ならともかく流石に子どもだからね。具体的な生息地はどこ?」
「ここから北西に進んだ所に群生地があるらしい」
「とりあえず行ってみようか」
そう言ってアウルはバギーの窓を閉める。これはもう決定の合図だ。子どもたちはバギーの後部座席に座り、機嫌よくルビリムを齧っている。呑気なものだ。
リヴィエントの生息地までやってくると、ビオナが忠告文を空中に発令した。
「おい、この先はリヴィエントの生息地だから気をつけろってさ」
バギーと並走して窓を叩いて言うと、アウルはバギーを止めて窓を開ける。その瞬間、温かい空気がバギーから流れ出てくる。
「お前らは随分と快適な旅を送ってるなぁ?」
こちらはバイクで全身凍えそうだと言うのに。これもまたバイクの難点だ。
「とりあえずリヴィエントの花は見える範囲にめちゃくちゃあるね」
小型のスナイパー銃をダッシュボードから取り出したアウルがバギーから下りてきた。
「ここはお前に任せる」
「ま、仕方ないね」
それだけ言ってアウルはゴーグルをつけてリヴィエント群生地にギリギリまで近づくと、パパパパパパ! と軽い音を立てて蜜袋を端から撃ち抜いていく。
見ているとたまに撃ち抜かれた蜜袋から薄黄色い液体が飛び出して、別のリヴィエントにかかって音を立てて花弁を溶かしている。
「まじで酸が強ぇんだな」
感心したように言いながら何となく足元を見ると、そこにはリヴィエント群生地から這い出てきているツタが絡まっていた。
「これも使う?」
いつの間にかバギーから下りてきたスワローが足元を指差すので、俺は首を横に振る。
「ランク2の素材なんか邪魔なだけだ」
それでも採取する奴はいるようで、ツタにはあちこちに切られた跡があった。
すると、それをしばらく見ていたロロがふとしゃがみこんでツタを眺めていたが、徐ろにナイフでツタを切り始める。
「おい、何してんだ?」
「あの強酸性の蜜を生成する事が出来るという事は、ツタにも似たような成分が多少あるのではないかと思ったのです」
それだけ言って切ったツタから溢れてきた液体をどっから見つけてきたのか小さな小瓶に採取し始める。
「あんま触んなよ」
「はい」
返事はしつつもロロは採取を止めない。ちなみにスワローは俺の腰についたポーチに勝手に話しかけて手を突っ込んでいる。
「で、お前は何してんだ」
「お腹減ってきた。さっきここにルビリム入れた」
「……そうかよ」
「ドリルも欲しい」
「お前は止めとけ。おい、何個入れたんだよ」
「5個」
5個も入れたのか。まだごそごそとポーチを漁っているスワローに呆れつつアウルに視線を移す。
「おい、どうだ?」
「目についたのは全部撃ったけど、どうかな。それにしても思ってたよりも結構おっきい花だね。あとたっかい所にあるなぁ」
「その割に蜜袋は小せぇな。ところでロロが何かしようとしてんぞ」
親指でどんどん液体を集めるロロを指差すと、アウルは困ったように肩を竦めるだけだ。
「ロロは置いておいて俺達は花弁を集めよう」
「そうだな。おいスー、食べる前に仕事だ」
俺の言葉にスワローは落ちていた石で削っていたルビリムを置いて頷く。
ドリルが貸してもらえないから石で削ろうとした所は評価しよう。恐らく無理だろうが。
「……分かった」
不本意そうにアウルの元に向かったスワローは高い所で咲き乱れる花を見上げる。
「取れない」
「登って根本を切って落とさないと駄目みたいだね。スーちゃんはアエトスと組んで」
「うん。アエトス、切って」
「へいへい」
花弁を集めるぐらい楽勝だと思っていたのだが、これがなかなか骨が折れた。
ツタをよじ登ったまでは良かったが、花の付近に来るとツタから唐突に茎が生えていて、その茎に細かいトゲが沢山生えていて地味にチクチクと刺さって鬱陶しい。しかもそれが簡単に抜けて手袋にびっしりとくっつくから腹立たしい。
「こりゃ手袋買い替えだな」
「アエトスも? 俺もだよ」
そう言ってアウルは隣の花のツタからこちらに向かって手袋を見せてくるが、その手袋にはびっしりと白っぽい産毛のようなトゲが刺さっている。