「つまりいつの頃からかAIと人間が繁殖する術を得たという事?」
「そういう事です。元は同じ電気信号で動く者同士ですから、何も不思議ではありません。身体の構造をどちらかに似せれば、不可能ではないのです」
「ビオナと結婚する事も出来る。多様性」
「多様性って……せめて見た目は似てて欲しいがな」
流石にビオナと番関係になるのは無理がある。
「なるほどねぇ。思ってたよりもこの世界は面白い経緯を辿ってたんだね。今の技術力でもAIを搭載した有機生命体を創る事は可能だろうし」
「で、こいつらみたいな無個性な人間が出来上がるってか? 糞食らえだな、そんな世界」
「俺もそう思うけど、この二人の時代もまた失敗してる。だから今があるんでしょ。おまけにロロの言い分が正しいなら、俺達にもそのAIの血が流れてるかもしれない訳だ。でも不思議だな。俺達とこの子たちの間には約1000年もの空白期間がある。その間には一体何があったんだろ?」
アウルはそう言って口元に手を当てて考え込む。
「タイムシアターが永遠に稼働しています」
「どういう事?」
「タイムシアターは世界の外に付けられた定点カメラのような物です。1000年の間に破壊されていなければ、今もずっと観測を続けていると思われます」
「なるほど。それはつまり、君たちも知らない1000年間がそこに観測されてるかもしれない訳だ?」
「そういう事です。セキュリティをかいくぐるには少々手こずると思いますが、この地形の変わり方と生態系への影響は何かがあったに違いありません」
「これは面白くなってきたな」
ロロとアウルはそれからも二人して楽しくお喋りしているが、早々に戦線離脱した俺とスワローはそんな事よりも腹ごしらえをするのに夢中だった。
「スー、俺の相棒がお前で良かったよ」
「スーもアエトスで良い。アウルとロロの話は意味不明」
「適材適所って奴だ。ほら、肉焼けたぞ」
「うん」
「立派なハンターに育ててやる。その為にはまずデカくなれ」
「分かった。デカくなる」
素直なスワローは両手に肉を持ち頬張り始めた。
寒空の中テントで一夜を明かした俺達は、ソルティアーナを目指して南下しつつ子どもたちのソルティアーナで耐える肌着の素材を探しに行く事にした。
「おいアウル、ネクサスボードには何か有益な情報はねぇのかよ?」
「ネクサスには無いね。君の繋がりは皆ハンターだから」
「そりゃそうだ。採取組との繋がりはあんまねぇんだよな」
アウルはバギーを自動運転に切り替えてさっきから俺のビオナを使って各掲示板を読み漁ってくれているが、俺のネクサスボードにはハンターしか集うことが無い。
こんな事になるならば日頃からちゃんと採取組とも連携を取っておくべきだったと後悔するが、もう遅い。
「あっちはどうだ? インフォスフィアの方は」
インフォスフィアとは、ネクサスボードのような個人同士のグループで繋がる掲示板ではなく、全世界のありとあらゆる狩猟、採取、加工の職業についてる者たちが好きに情報を投げる掲示板だ。
「そっちを今見てる。ついでにソルティアーナに向いてる素材でグレイシアで採れるのも聞いてるけど――ああ、来た。ホログリッドに投げてくれたみたいだ」
そう言ってアウルはバギーを止めて並走していた俺を止めると、ビオナを返してくる。
ビオナからは見たことも聞いた事もない植物がホログラムで浮かび上がり、その植物について音声案内が流れる。
『寒冷地で採取可能なフロラリスはリヴィエントのみです。リヴィエントは非常にしなやかで柔らかな繊維を持ち保温性に優れていて、ソルティアーナの気温に触れても肌を焼く心配はありません。リヴィエントは多年草でマイナス20度以下の寒気にさらされると常に白い花を咲かせています。リヴィエントから採取出来るフロラリスは花とツタから採取する事が出来ますが、花から採れるフロラリスは一つの花からわずかしか採れず、取引額は非常に高額でランクは7に設定されています。ツタから採れるフロラリスは一般的でランク2に設定されています。ツタから採れるフロラリスではソルティアーナに長時間居るには困難になります。ここからは採取方法になります。聞きますか?』
「相変わらず前置きが長ぇな。むしろそっちを先に教えろよ」
思わずビオナに文句を言うと、ビオナは黙ることなく『申し訳ありません。善処します』と言ってまた話し始める。