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第18話『旧時代の文明』

 やがてルビリムが削り終わった頃、俺達はようやく夕食にありついた。


「本当に中は生なのですね」

「ミスティバニー美味しい」


 おっかなびっくり肉を齧るロロと、肉なら何でも美味しいスワローを横目に俺達はこの辺の地図をビオナに表示させて、次の目的地に向けての行路を描く。


「俺のビオナに登録してた野営地はこことここ。それからここらへんに集落があったかな」

「それじゃあまずは集落に行って素材売るか。それから真っ直ぐ南下する」

「そうだね。それじゃあそこでソルティアーナの服揃えないと」

「あいつらはあのパジャマで良いんじゃねぇか?」

「あれは素材が薄すぎる。あんな格好でソルティアーナに入ったら一瞬で大火傷だよ」

「それもそうだな。しかしソルティアーナ向けの素材なんかここら辺で採れねぇだろ」

「そうだね。かと言ってモンスターの皮そのままだと焼けてしまうし……ああ、あれは? フロラリスなら何か良いのあるんじゃない」

「採取か……めんどくせぇな」


 フロラリスというのは植物から出来る繊維の総称だ。


「それじゃあ明日の目的はそれだね。で、二人の時代の話を聞かせてくれる?」


 ルビリムにナイフを突き刺しながらそんな事を言うアウルに、同じように両手で抱えながらルビリムを齧っていた子どもたちは顔を上げた。その目はいつになく輝いている。どうやらルビリムが美味いらしい。


「何が聞きたいですか?」

「スーは何でも知ってる」

「それじゃあまず初めに、君たちが居た時代というのは俺達が伝え聞いている時代からどれぐらい後の事なのかな?」

「いつの時代を知っているのですか?」

「ネオスフィア時代の終わりごろかな。革新が始まった時だって言われてる」

「俺も聞きたいな。子どもは皆学校とか言うのに通って、その後社会に出て会社に通うんだろ? 会社ってつまり何する所なんだ? その頃には既にこのビオナの元になるようなのがあったって教えられたが」


 2000年代の時代に新たな社会構造や価値観が出来上がったとカムネストで教わったが、俺達が教わるのはその時代までだ。だからこそ不思議だった。


 今は3211年。その間にこの世界には一体何が起こったというのだろうか。


「僕達が眠りについたのは2200でした。その後この世界に何が起こったのかは分かりませんが、それまでの事なら分かります。アエトスの言う学校というのは、子どもが協調性や勉学を育てたり学ぶ場所でした。会社というのは社会の構造を維持するために貢献する為の場所です。ここで言う、アエトスやアウルがしている事と同じで、当時の彼らはそれを仕事と呼んでいました」

「なるほど。それでその後は?」

「2020年頃からAI技術が一般にも下り始め、次第に仕事そのものを人々はAIに任せていくようになります。人間は仕事をAIに任せ、自由を手に入れました。その頃には大半の仕事はAIを搭載したロボット、もしくはアンドロイドが請け負っていました」


 ロロは淀み無く歴史を話すが、聞いている限りはとても平和な社会だ。それでもロロ達の時代に行き着き、そして今はこんな原始的な生活に陥っている。


 一体その間に何があったというのだ。


「でも人間は欲深い」


 それまでルビリムを齧っていたスワローが突然苦々しい顔をして言う。そんなスワローの言葉を効いてアウルは首を傾げる。答えたのはロロだ。


「自由の先に何か不都合な事があったのかな?」

「自由の先に何があるのか誰にも分かりませんでした。AIはどんどん優秀になるのに、それに人間の方が追いつけなかったのです。一部の追いついた人間はそれを自分の利益の為に使うことを覚えてしまいます」

「なるほど。つまりそのAIを使って何かし始めた訳だ?」

「そういう事です。人間という生物は声の大きい者が正しいと信じ込む習性があります。そのため、本当に正しい事を言っていた者たちを排除し、また支配構造に戻ってしまいました。それが2100年辺りですね。それから人間は人間らしさこそ悪だと考えました。そうして僕達のような人間を自らの手で創り出した。身勝手な人間を作るべきではないと一切の繁殖行動を禁止し、施設のお腹から生まれた子どもたちこそがこれからの未来に必要だという考えに至ったのです」

「なんつう怖ぇ時代だ。まだセントラリオンに監視されてる方がマシじゃねぇか」

「でも名残はあるよね。カムネストなんかはその時代の名残だと思うよ。私生児しか受け入れず、ハンターになるべく育て上げるんだから」

「皮肉な事に人間が模範にしたのはAIで創られた有機生命体です。結局人間はAIを使いこなせずにAIに乗っ取られた形になってしまいました。だから正直に言うと僕達が完全に人間かと問われたら、それは分かりません。どこかでAIが混ざっている可能性もあるのです」


 ロロの言葉に俺とアウルは黙り込んで顔を見合わせる。思っていたよりもヘビーな話に絶句してしまっていた。


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