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第17話『何でも素材になる』

 皆に否定されたスワローはそれでも何故か胸を張った。


「何でも経験が大事」

「自分で言うんじゃねぇ。ほらそれバイクに乗せろ。泊まるとこ探すぞ」


 集落が全く見つからないので恐らく今日は野営になるだろう。


 しばらく俺達はグレイシアを彷徨っていたが、ようやく地表が見える場所を見つけた。


「はぁ。永遠に彷徨うかと思ったよ。アエトス、ビオナ貸して。ここ登録しとくよ」

「ああ。もうお前に預けとくわ」


 その方が良い気がする。マメなアウルに使われた方がビオナも幸せだろう。そう思ったが、アウルは野営地を登録だけしてビオナを返してきた。


「それは遠慮しとくよ。突然君の履歴が僕のみたいになってもビオナも困るだろうからね」

「それは確かにそうだな」


 ビオナを受け取って胸のホルスターにビオナを仕舞うと、そんな俺達の会話を子ども二人が首を傾げて聞いている。


「ビオナはただのデバイスではないのですか?」

「ビオナ、生きてる?」

「生きちゃいねぇが、こいつは常に進化してる。言わば俺達の分身みたいなもんなんだ。俺達の趣味嗜好、行動や癖、そういうのを常に管理して俺達に合わせた提案をしてくる」

「アエトスのは提案しない。アエトス、ビオナほとんど使わない」

「俺はその設定を切ってるからな。なんか気味悪ぃだろ? そういうの。ただの機械のくせにさ」


 常に管理をされるという事は、常に監視をされているという事だ。別に自由が好きだとか見られて困るような事もしていないが、自分すら気付かぬうちに自分の好みを把握されるのは気持ちが悪い。


「機械は便利。使いこなすには倫理が必要」

「それはお前らの世界での教えか?」


 トラヴァーズテントを生成しながら問いかけると、スワローもロロも頷く。


「ちょっと君たちの時代の話を聞きたいな。夕食が済んだら聞かせてくれる?」

「いいよ」

「構いませんよ」


 にこやかなアウルの質問に二人は頷いて興味深げに勝手に組み上げられていくテントを見つめている。


「こういう所には名残を感じますね」

「さっき言ってた奴か? 要はお前達の時代では人間もこの方法で運べたって事だよな?」

「そうです。世界全体がこのポーチの中だったのです。僕達の時代のワープは量子もつれを利用していました」

「僕達の時代は?」

「ええ。ワープにも種類があります。僕達の居た時代の前時代までは量子ではなく空間を無理やり歪めて繋ぐタイプのワープでしたが、それだと事故も絶えなかったとタイムシアターで学習しました」

「それじゃあ量子のワープは事故は無かったの?」

「ありました。違う量子とくっついてしまったり、どこかが欠けてしまったり」

「……そ、それは怖いね」

「ですがすぐに修理が出来るので。別に痛みもありませんし」


 淡々とそんな事を言うロロの言葉に、俺とアウルは思わず顔を見合わせる。


「肉だけじゃ味気ないな。そこらへんにルビリムないか?」

「ルビリム? あるかなぁ」


 アウルは立ち上がりゴーグルをかけると、つまみを最大限にまで回している。その間に俺はスワローと共に簡易肉焼き器をセットして肉を焼き始めた。


「ああ、あそこにあるね。アエトス、バイク借りるよ」

「ああ」


 俺が答えるよりも先にアウルはバイクに跨がり颯爽と雪原を走っていく。


「ルビリムとは何ですか?」

「果物だな。真っ赤でかったい果物。ドリル使って皮を削ってから食べる」

「……想像がつきません」

「そうか? まぁもうちょっと待ってろ。多分スーは好きだと思うぞ」

「スーは果物好き。ジュース美味しい」

「だろうな。ルビリムはお前の大好きなジュースの主原料だ」


 そんな事を話しながらハンドルを回していると、ようやくアウルが戻ってきた。


「お待たせ。さてロロ。一緒に頑張って皮を削ろうか」


 そんな事を言いながらアウルはバギーからドリルを二本取り出してロロに一本手渡した。それを見て好奇心旺盛なスワローが「やりたい」と名乗り出る前にアウルがそれを止める。


「あ、スーちゃんは今回は見てて。君がやると実が無くなりそう」

「……アウルいじわる」

「意地悪ではありません。さっきの皮剥ぎを見れば誰でもそう思います。それでアウル、これはどうすれば良いのですか?」

「うん。この外側の真っ赤な石みたい部分をこうやって削り取っていくんだよ」


 アウルはドリルをルビリムに当てると、小刻みに揺らしながらまるで鉱石のようなルビリムの皮を削っていく。


「おいスー、その粉集めとけ」

「ゴミ?」

「ゴミじゃねぇ。それは女子の化粧品になるんだよ。紅の類にな。だからそれも立派な素材だ」

「もしかしてさっきのミスティバニーの足の腱もですか?」

「おお。あいつらのバネはかなりの強度があるからな。あの筋や腱はベルトに加工される」

「なるほど。あ、白い所が見えてきました」

「うん、上手上手。白い所はびっくりする程柔らかいからそこにはドリルが当たらないよう気をつけてね」

「はい」

「……楽しそう」

「我慢しろ。お前が秒でルビリムをお釈迦にする所が目に見えるんだよ」


 拳3つ分ぐらいの丸いルビリムを二人は器用に削っていく。その粉をスワローは不貞腐れた様子で集めていた。

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