「準備出来たか?」
「うん」
「そうか。ああ、あいつの蹴りには気をつけろよ」
「分かった」
スワローは頷いて辺りを見渡すと、一目散にミスティバニーの右側に大きく迂回して走り出す。
「早いねー」
「早いな」
「あれがスワローの唯一の特技です」
呆れたように言うロロに俺は頷いた。多分そうだろうなと思ったからだ。
けれどこの世界では足の速さは重宝する。
音もなく静かにミスティバニーに近づくスワローは、そのままミスティバニーの後方に回り込むと片手を上げた。
それを見て俺は銃を構え、アウルにも視線で指示をする。「手伝え」と。
そんな俺の視線に気付いたアウルは肩を竦めてバギーの座席の下に置いてあったやけに長い銃を取り出す。
「そんな長銃で何撃つ気だよ」
「あれ。あとこの長銃はアストラル・ラインだよ。星をも撃ち落とす線ってね」
「……お前、また名前だけで武器作ってんのか。てか、お前が仕留めれば良くないか?」
「悪い? 好きなんだよ。それから僕は生憎仕留める為の弾を切らしてる上にポーチが機能しない」
ビオナが無ければポーチは作動しない。仕方なく俺は自分の銃に弾を込めた。
「……役に立たねぇな」
それだけ言うと俺は手を上げる。その途端、スワローはまるで弾丸のようにミスティバニーに向かって走り出した。
突然群れの中に突っ込んできたスワローに驚いたのか、ミスティバニーは異様に長い耳を器用に使い、縦横無尽に逃げ惑う。
それを見てアウルが的確にミスティバニーの行く先々に銃を撃ち、ミスティバニーをこちらに誘導した。
それでもミスティバニーはその脚力を使って高く飛び上がり向きを変えようとするが、それをロロが防ぐ。
「アウル、二時の方向、上32度です」
「了解」
ロロに言われてアウルはきっちりその場所に弾を撃ち込むと、ミスティバニーはまた方向を変えてこちらに突進してきた。
この間の事はほんの一瞬の出来事だったが、ハントをする時はやけに時間が流れるのをゆっくりに感じる。
俺は深呼吸をして銃を構えると、罠にかかったミスティバニーの眉間に一発ずつターミネイトラウンドを撃ち込んだ。その名の通り、終わらせる為の弾丸だ。
ミスティバニーは全部で6匹居たが、二匹撃った所で撃つのを止めて手を上げる。
「スー! 戻れ。もういいぞ」
俺の言葉にスワローはミスティバニーを追いかけるのを止めてすぐさま戻って来た。
「スーハンターになれる!」
「ああ、そうだな。ご苦労さん。で、ロロは何でそんな顔してんだ」
表情が乏しいスワローとロロだが、今はロロの眉間にシワが寄っている。
「4匹も逃がしてしまいました」
「おう。全部は狩らない。それがハンターの掟だ。ちなみに俺は子どもも狩らない」
「種族の死滅を防ぐためですか?」
「それもあるが、お前あんだけの巨体を6匹も狩ってその素材と肉を売りさばきに行くんだぞ? 俺の愛車に積み込めると思うか?」
バイクを指さしながら言うと、ロロは納得したように頷いた。物理的に無理だと言う事に納得してくれたようだ。
「アウルのバギーでも難しいですね」
「だろ。だからあれで十分だ。よしスー、次は皮剥ぐ練習すんぞ」
「分かった」
そう言ってスワローは真新しいハイドフレイヤー(皮を剥ぐための専用ナイフ)を取り出して掲げる。
「ロロもやってみる?」
俺達が倒れた二頭のミスティバニーの元へ行くと、アウルは自分のハイドフレイヤーをロロに手渡そうとしたのだが。
「正気ですか? 素人にそんな事をさせたら皮に傷がついてしまい、価値が下がります。それに実践を行うよりもまずは手本を見せるのが何かを教える時の基本で――」
「うん、分かった。とりあえず見ててくれる?」
突然早口で話し始めたロロを見てアウルは笑顔でミスティバニーに跨った。
「なぁ、お前はもうちょっとロロみたいに躊躇しねぇか?」
「しない。ロロは臆病。スーは大胆」
「大胆って次元じゃねぇんだよ。もうちょっと考えてナイフ入れろよ。ほらここから真っ直ぐに足まで裂いてズルっと服脱がす感じでだな――」
ロロと違ってスワローはどんどん好きにナイフを入れていく。こいつらは多分、足して2で割ると丁度良い。
しばらくして――。
「出来た!」
「汚いですね」
「こっちも終わったよ。うわぁ」
一人で解体していたアウルはスワローが剥ぎ取った皮を見て頬を引きつらせる。
「はぁ……こりゃもうクズ素材だな……」
あちこちにナイフを入れられたミスティバニーの皮と肉はそれはもう悲惨な事になっていた。これでは狩られたミスティバニーも浮かばれない。