「そうですか? それは良いことです。僕はお喋りが過ぎるし、スワローはこの通りです。個性が強すぎると言われていました」
「へえ……」
むしろ二人ともかなり無機質だと思うのだが、どうやらそうでもないらしい。だとしたら他のCSPの連中はもっと無表情で無感情なのだろうか。
「まぁでもロロの話のおかげでどうしてあそこをいとも容易く爆破したのかが分かったよ。あそこはハイエナが見つけたCSPが最後だったって事だね」
「だろうな。まぁ、もう二人いた訳だが」
そう言ってちらりと子どもたちを見ると、二人はまだケーキに夢中だ。
スワローに至っては俺の分まで黙って食べている。ロロはアウルのケーキを凝視しながらも辛うじて我慢しているというのに。
そんなロロに気付いたのか、アウルは苦笑いしながらロロに自分のケーキを差し出している。
「これは何と言う食べ物ですか?」
「これか? これはビーシアンシロップって言う蜜を使ったケーキだ」
「ビーシアンシロップ……甘味料という事ですか?」
「まぁそうだな。甘味料の中でも大分高級だけどな。滋養強壮に良いそうだ」
ビーシアンはとにかく馬鹿みたいにデカい巣を作る昆虫だ。そこからこの蜜を取ってくる訳だが、これがとにかく大変なのだ。
「甘くて滋養強壮に良いのは理に適っていますね。口にするのに抵抗がありませんから」
「これを採取する時はまず全身に蜜を塗るんだ。それから迷路みたいな巣に入ってな、マッピングしながら蜜の在処を探す。警戒されたら一貫の終わりだ。大人のビーシアンに襲われてミンチにされて餌にされるんだぞ」
それを聞いてロロとスワローはスプーンを止めた。
「……心して食べます」
「ああ、そうしろ。これが今の世界だ。この世界は過酷だ。ここで生き抜くには採取、狩猟、加工、このどれかが出来なければ死ぬ」
「スーもハンターになる」
「なれんのか? いや、でも死体見てもケロっとしてたしな。案外いけるかもな」
スワローはモンスターの死体でも人間の死体でも動じる事が無かった。そういう意味ではハンターの資質はあるのかもしれない。
「死体なんて山程見てきましたからね。どんな死に方をしていても、気にもなりません」
「そう。日常茶飯事。斎場はいつも一杯」
その言葉に俺とアウルは思わず顔を見合わせた。
前言撤回だ。もしかしたらこいつらは俺達よりもずっと過酷な世界から来たのかもしれない。
「美味しい物一杯食べて綺麗な所に沢山行こうね、ロロ」
「? はい」
こいつらに同情したのか、アウルがそんな事を言うとスワローがじっとこちらを見上げてくる。
「スーも食べたい。行きたい」
「は? 馬鹿言うな。俺は世界のモンスターの武器を集めるんだよ。綺麗な場所なんか無縁だ。んなもん勝手に自分で探せ」
「……アエトス、厳しい」
「アウルで良かったです」
「ははは! でもアエトスと居たら美味しいかどうかは別として珍しい物は沢山食べられると思うけどね」
「そもそもお前はどうなんだ? これからもハンターなんか続けられんのか?」
学者を集めて殺すというのがセントラリオンの目的だったのだとしたら、アウルは確実にこれからも命を狙われ続けると思うのだが。
そんな質問にアウルはキョトンとした顔をして答える。
「え? なんで? だって俺はもうあそこで死んでるから大丈夫だよ」
「……どういう意味だ?」
「あそこに支給されたパスコードで入ったでしょ? で、出る時にビオナをあそこに捨ててきたからね。むしろこれで自由だよ。だから君を誘ったんじゃないか」
「ちょっと待て。お前、もしかして最初からそのつもりであそこに入ったのか?」
「そうだよ。言ったでしょ? 俺はセントラリオンを信用してないって。ビオナは俺達の監視装置だ。これを捨てるにはどこかで死なないと。でもビオナが無いとこの世界では正直何も出来ない。だから君と先に接触したんだよ」
「……はあ!? それは何か? 何かあったら俺のビオナを貸せって事か!?」
「そういう事。ビオナが無いと人探しも出来ないからね。誰か信用出来る人を先に確保しておきたかったんだ。金はどうにでもなるよ。現金さえあれば。でもその他の事がね。はい、貸して」
「アウル、スーと一緒。ロロも使う」
「……お前らな」
怒りを通り越して最早呆れている訳だが、それで納得した。どうして俺と同じように単独行動を好むアウルがわざわざ俺に声をかけてきたのかが。
俺は机の上にあった酒を引っ掴んで、グラスに注ぐ事もせずに一気に煽る。
「そんな顔しなくても疑似ビオナを入手するまでの我慢だよ、アエトス」
「ふざけんな。何が悲しくて男と旅しなきゃなんねぇんだよ」
「美少女が1人いるでしょ。ねぇ? スーちゃん」
「いる。スーは美少女」
「自分で言ってりゃ世話ねぇんだよ。はぁ……こいつらモンスターより厄介だ……」
がっくりと項垂れた俺の背中をロロが慰めるようにポンポンと叩いてくれるが、俺はこれからの生活を思って既に頭を悩ませていた。